ウィークエンドシャッフル
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「あー、ごめん、ちょっと、帰るわ…」
「うっそうそ何で?」
「明日仕事だから」
「絶対嘘だし」
また始めと同じように腕を掴まれて、浮かせた腰をソファに落とされた。
さらに壁際に距離を詰められて逃げ場が小さくなる。
「や、ほんとに。てか狭い」
「終電無いのに何で帰んの」
「タクシー」
「近いの?じゃ俺も一緒帰っていい?」
ニヤついた顔が近くなる。
酔っているんだなとすぐ分かる匂い。
ああ、最初にきっぱり断ればよかった。
人恋しさや暇つぶしに相手をしてしまった自分を悔やむ。
「いやいや、ダメに決まってるから」
「ダメ?ちょっとだけちょっとだけ、休憩させてよ」
破綻した会話。
下心があらわになるその男の相手をするのがどうしようも無く嫌だった。
「ほんと、ごめん無理、親居るし」
「実家?じゃ俺ん家来たらいいじゃん。近いよ」
自分の危機管理が甘いのだという反省もあいまってバッサリ断れず嘘をつく私に、相手はこれでもかと押しを強くする。
「仕事なんだってば」
「俺ん家から行けばいいし、決まり。はい決まった」
「ちょっと、ほんとダメだから。親怒るから」
「なんでよ」
「ちょ、手え離して、トイレ行きたい」
なんとか穏便にすませようと手を引っこ抜こうとするが離してはくれない。
もう一度無理やり立ち上がろうとトイレ、と強調して言った。
「トイレ?トイレね?トイレはいいけど帰んのは無しね。行くのもそこのトイレね」
「はいはい、分かったから」
ようやく立ち上がったソファに残った男が、すぐ傍にもう一つあるバーカウンターの横、見える位置にあるトイレのドアを指す。
周到だな、と私はため息をついた。
誰がこの店初めてなんだと心で毒づき、左のソファとテーブルの間の細い隙間を縫って歩く。
「すいません、ごめんなさい」
音楽で聞こえないであろう3人の男の子に丁重に謝りを入れながら、足をぶつけないよう進んだ。
一番外側に座った男の子だけが足を外に向けて出やすいよう促してくれる。
「あ、すいません」
暗がりでその子にだけもう一度声を落とすと、見上げた顔が何かを言った。
声は聞こえなかったけれど、厚くつやめいた唇の動きを私が読み間違えてなければ
たいへんですね。
そう言ったのだと思う。
…見てる人が居たのか。
悪趣味な視線に私は何も返さず通り過ぎた。
そこから数歩でさっき指さされたドアにたどり着き、なんとなく振り返る。
一番奥のソファに残してきた男も私に何かを言った。
唇を読み間違えてなければその言葉は
『逃げるなよ』
記憶の声と重なった唇の動きに恐怖を覚え、私はドアの向こうの袋小路へと逃げ込んだ。