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地上に上がる階段の下、背もたれと片側の肘掛の二方向をコンクリートの壁に囲まれたソファ。
レディーファーストだとでも言うように私の手を誘導して奥の壁際へ座らせたその男は、思ったよりも女を踊らせなれていると分かった。
警戒心を少し強めにして、壁の方へもたれるようにして膝を男の方へ向けた。
体重をかけるのもかけられるのも嫌だったからだ。
それにしても、さっきから下心を内包した話がつまらない。
「俺、友達と来てんだけどそいつすぐ女見っけて消えちゃってさー…」
「はあ、そーなんだ」
「なまえは?よく来んの?ここ。俺初めてなんだよね。ってか全然この辺知らなくて、いい店とかあったら教えてよ」
フロアの逆側の階段下にこんなソファが置いてあるのを知っていて初めてもないだろうに。
私は適度に頷きながら周りを見た。
目の前の大きなテーブルを囲うように、両サイドのソファにも数人座っている。
右のソファに男女が一組。左のソファに男の子が3人。
テーブルが大きいせいでそれなりに距離が離れていて、重低音の中であちらの会話が聞こえるわけもない。
こっちの会話も同じことで、それどころか二人の間ですら会話が掻き消えそうなほどで…
だからこの男はさっきから、触れるほど近づいた耳元で話している。
いいかげんグラスを開けて席を立ちたかった私は、話のつまらなさも相まってグラスを傾けるペースを早めた。
久しぶりの甘い味。
思い返してみればここ半年ほど酒らしい酒を飲んでいない。
この半年を一緒に過ごした相手が「女が酒飲むのあんまり好きじゃないよ」と言っていたから。
半年間、聞かされ続けた身勝手な台詞の数々が重い音に潰されては蘇る。
記憶の中で紡がれる台詞と、現実で耳元に囁かれるニヤついた声が混ざっていく。
「いっつもこの時間帯に来てんの?」
『どうしてなまえはいつも帰るのが遅いの?』
「仕事は?何してんの?」
『残業?嘘だろ、そんな忙しい仕事かよ』
「休みいつ?昼間とか暇してんなら誘ってよ」
『休みの日は家に居るって約束したよな』
「携帯教えるからさ」
『携帯、隠すなよ。見せろって』
グラスを一気に傾けた。
柑橘系の色を少しだけ残して、氷がグラスの中で唇にぶつかり、ガシャ、と音を立てる。
聞いていられない。
この男と居たくない。
気晴らしに来たはずのこの場所で古傷を抉られるなんてたまったもんじゃない。
どうしてこんなに思い出すのだろうと思ったら、この男の香水は半年間飼い慣らされたあの部屋の香りと同じだ。