ウィークエンドシャッフル
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大通り。
暗い坂。
もっと暗い、地下への扉。
もう二度と、こんな気持ちでここに来ることはないと思ってたのに
「あーひさしぶりー」
「…ひさしぶり」
渦巻く光の軌跡以外は暗い人いきれの中、私はまた
寂しさを携えて ここに居る。
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ウィークエンドシャッフル
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毎月第3金曜日だけはハズレのないDJが回してくれるこのクラブに、私が来たのは半年以上ぶりだった。
もう顔見知りも居ないかなと思っていたけれど ここでの知り合いのうち何人かは既に挨拶をすませている。
だけどみんな連れがいて、こんなとこに一人で来るなんてどうかしてたな、と久しぶりの感覚に心許なくなった。
寂しさが見抜かれない仕草を探して人ごみをかきわける。
所在無く辿りついたバーカウンター。
仲良くしていたバーテンは既に変わってしまって女性になっていた。
若くて可愛い顔立ちなのに、オーダーを無愛想に受け取るそのバーテンを見て、ここも居心地が良い場所ではなくなったなとため息をついた。
ドリンクを待つ間、視線のやり場に困って前を向く。
人ごみの中、DJブースの前にだけポッカリと穴を開けやけに盛り上がっているフロア。
ポッカリと開いた穴から飛び出したスニーカーが空を切ってまた消えた。
それに合わせて人ごみがうねるように手を上げるのでダンサーが来ているのだと分かる。
私はまたため息をつく。
ダンサーが来ているとなると、ただ揺れに来た私のような客はフロアに出にくい。
時計を見た。
終電はとっくに無いけれどタクシーで帰れない距離じゃない。
DJブースにはいつもと違うDJ。
1時間経ってもお気に入りの曲がかからなかったら帰ろうと決めた。
「お待たせしましたー」
呼ばれて振り返るともうバーテンはカウンターの中でよそを向いている。
とことん気分を良くしない対応に私はガッカリして、カウンターに無造作におかれたグラスを取った。
「おー、ひさしぶりい!」
「え、…」
振り返ると、笑顔を全開にした見知らぬ男。
ぶつかりそうな距離に居たその男を避けてグラスを自分に引き寄せる。
見覚えの無いその相手を思い出そうとしてみるがやはり思い出せない。
「なにしてんのーあ、ちょっと待って俺も買うから」
「あの、え」
グラスを持っていない手を強引に引かれ、またバーカウンターに向きなおされた。
焼けた大きな手の力が強くて少し怖い。
ゴツっとした腕にいかついアクセ。
全体的にもゴツっとしたその男に、やはり見覚えは無かった。
オーダーをカウンターに投げかけて振り返った男が 私の手を離さないままでまた全開の笑顔を向ける。
「名前なに?」
「え」
「名前」
なるほど、強引なナンパだと納得して笑ってしまった。
人なつこく笑うし、そこまで悪そうではない。
何より多少なりとも刺激を求めてきた自分にとってみれば、誘いをかけてきた以上は話し相手ぐらいの価値はある。
もちろん、ここからの話の内容によるけれど。
「なまえ、そっちは?」
「なまえか」
「お待たせしましたー」
「あ、はいカンパイ」
「あ、かん、ぱい」
名前を言っても名乗らないその男は、私の手に持ったグラスに今出てきた自分のそれをぶつけて煽った。
なんともマイペースで、私は値踏みをする間もなくその男に手を引かれてフロアと反対方向に連れて行かれる。
こういう店では日常茶飯事のこんな風景は、私がもし少しでも嫌だと思っていても誰に邪魔されるでもなく、誰が助けに来るわけでもない。
私の手を掴む黒い肌。
力の強さにうんざりしている私は、断りの入れ方を既に考えながら一杯だけの時間を始める準備をした。
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