chocolate and a cake
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会いたいという気持ちを不満に変えて我慢していたのに
もう、それもできない。
会いたい。
会いたい。
他になにもいらない。
「そ、んな、の、言わなきゃわからないだろう!?なんで説明しない!?」
「い、いえるわ、け、ないだろぉ…」
「なんだよ、もう…女か?お前は!?」
おれの手を投げ捨てたユノの横をはいずり出して、辿りついた一階へと泣き顔のまま出た。
ユノはおれの姿を見て呆れたように開ボタンを押してくれて、涙を拭いながら立ち上がるおれにため息をつく。
「…なまえさんの家に行くのか?」
「行く、…会い、たい…」
「そんな顔で行くのか?」
「どんなでもいい!もう!会いたいの!会いたいんだよ!」
オートロックのドアをくぐってなお、しつこく止めようとするユノを勢い任せに振り返る。
グズるなよ、と呆れ顔のユノが一瞬で視線の行き先を変えた。
おれの背後の、遠くの方へ投げかけられた視線。
おれは反射的にまた元の方向を振り返る。
遠く、反対車線の方から走ってくる、小さな影。
慌てふためいた走り方のそれは
おれが
今いちばん、必要としている
「…なまえ…!!」
はじかれたように声を上げて、ユノに後ろから「しー!」と注意される。
でもその時にはもうおれの体はユノの居る場所から離れていて、車の影が見えない車線を大股で走り、なまえの居る場所へと近づいていた。
大きな箱を両手で持って
息を切らして
肘までずり落ちて紙袋とぶつかるカバンも元に戻せないで
髪もグチャグチャの
どうしようもなくかっこ悪い、なまえの姿。
「あ!すい、ませ…!は、はあ、はあ、あれ、ユチョ、は、…」
おれのかけた声に気付いてなかったのか、目の前に立つとなまえはおれを避けて歩こうとした。
通せんぼをするように手を広げたところで、やっとおれの顔を見てくれる。
真っ赤な顔。化粧もグチャグチャだ。
「は、ご、ごめん、携帯、充電、ご、め、連絡、はあ、残業、が…」
まとまりも繋がりもない言葉だけど、何があったかよく分かる。
そしてそれをどれだけ申し訳なく思ってくれてるかも。
「…うん……」
なんだか胸が詰まって何も言えない。
おれ、この人の気持ちの何を疑ってたんだろうか。
それでなにをしようとしてたんだろうか。
ああ、もう、また
涙が溢れて
「ひゃ、ひゃくにち、きね、ん!はあ…おめ……え、泣いてるの!?なんで!?」
汗でグチャグチャのなまえ
その手が開けた箱の中の、グチャグチャのケーキ
涙でグチャグチャのおれ
もう
なまえの笑顔しか見えなくて、会いたかった、とすがりつくように顔を預けたおれに
「男らしいな彼女だなー」
いつの間にか追いかけてきていたらしいユノののんきな感想が、漂う空気もものともせず、届いた。