chocolate and a cake
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
思い返せば。
最初の1ヶ月は、とても幸せだった。
今までの彼女とか比じゃなくて申し訳ないくらい。
駆け引きとか作戦とか、そういうものと無縁の関係性に世界が開けたように感じた。
だんだん忙しさが増してきてるのにお互い気づいていたけど、できるだけ会えるよう、週末は必死で宿舎を抜け出した。
なまえも週末に仕事が入らないよう平日遅くまで残業をしていたり、とにかく生活の中心には俺たち二人の関係があって、だからこそ、生活に追われてもご褒美が必ずあると思えば頑張れた。
おれのご褒美。
それはなまえが同じだけおれを思ってくれていると確かめられる瞬間だ。
たとえば、メールを送ったら待っていたかのようにすぐ返事が来る時。
電話をかけて、明るく迎えられる瞬間。
会える?と聞くおれに答える嬉しそうな声。
人目を盗む待ち合わせに駆け込んでくる、弾んだ息。
差し伸べたおれの手をとる温かさ。
会いたかったとその胸に預けた頭を撫でてくれる、手の 優しさ。
それがもう、いつの間にか、遠く遠く過去のようで
おればかりが求めて、おればかりが待って
おればかりが
この恋にしがみついてるみたいで。
…そんな風に思い始めていたところに、さっき届いたメールがおれの心を揺さぶった。
『ユチョンまだ日本いる?らいしゅう、合コンあるけどくる?』
つい先月も彼女が居ると断ったのに、この男は本当に出会いというものに貪欲だ。
まあ、若くて夜遊びに慣れてる男なら大体こんなものか。
彼女が居ると断った時だって、なまえとおれの関係を根掘り葉掘り聞いたあと
「え、ゲーノー人ってそんなに彼女と会えねえもんなの?寂しー!でもさーじゃあさー遊んでもバレなくね?」
としれっと言ってのけたような男だ。
あの時は言葉の意味をのんだ後、その軽薄さを笑い飛ばした。
…今は、ちょっと 揺れてる。
なまえに会う前はおれも充分軽薄だったのを思い出し、少し笑った。
今だに慣れない日本語でメールをゆっくり打ち始める。
「…ば、しょ、ど、こ………っと、え、」
文字変換を遮って、画面がメール受信へと強制的に切り替わる。
新しいメールがまた、おれの心を揺さぶった。
なんだったら、さっきよりもっと強い力で。
『らいしゅうの夜、あいてますか?できたら、あけててほしい!』
ここ数日、なまえのアドレスからは「ザンギョウ」「ごめん」以外の言葉が書かれたメールなんて受け取っていなかったのに。
久しぶりに見た おれと彼女の繋がりに、胸がぎゅうっと締め付けられる。
なんだよ、すごいタイミング。
おれのこと引き止めたなんて、どうせ分かってないのに。
知らずにおれを奪い返したなまえに、なんだか無性に会いたくなる。
考えなしに『うん』と返してから、慌ててユノからの日程メールを確認した。
夜ならなんとか調整はつく。ていうか、つける。なんとか、する。
『よかった!ありがとう(^^)仕事のあとだけど、ぜったい行くから!時間はまたメールします!』
久々に顔文字が付いて返ってきたメールに、今度こそ自信をもって
『わかったよ!(^o^)』
と顔文字をくっつけて返した。
返しかけていた男友達へのメールもちゃんと忘れず打ち直す。
『カノジョとデートだよ!』
自慢をこめたおれの返事に対する、『ウゼーww』という反応。
おれは久しぶりに声を出して笑った。