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「あの、すいません、ほんとに!ほんとにすいません!!」
「あー大丈夫なんですね、あのー、おこってないんすよ」
「いやでもほんと、すいません!ごめんなさい!!」
「だいじょぶだと思いますねー、ジェジュンはいいやつなんでー…。な、ジェジュン?」
「うん…ちょっとぉチャンミン笑うのやめてよぉー…」
「ふふふふっふふふ…」
帰ってきて惨状を見るなり「あんたら酔っ払いか!え!」と怒り出した駐在さんに4人一緒に叱られ
私が散らかした交番の掃除をまとめて命じられ
ちくわぶ、大根、卵、糸こんにゃくを拾わせ
そこまでさせた私と歩く帰路ですら、こうして優しく許してくれて
…ヒーローさんは、ほんとに優しい。
「ほんとに、すいません…私がちゃんと後ろ見なかったから…」
「ぃやー、すぐ声かけたらよかたのにぃ、しなかったからぁ」
「どっちも悪かたんですよね?ね、チャンミ?」
「あー、そーですねぇー…っふふ…」
この3人は、夜道でたまたま見つけた私にわざわざ付いてきてくれたのらしい。
何かあってもすぐ助けられるようにと。
なのに、私が勘違いして歩くのが早くなったので声をかけるタイミングを失い…
結果。
「っふふ、はは、ジェジュン、い、糸こんにゃく、肩に乗ってますふふふ、ははギャハ」
「ふっふふほんとだ乗っているねふふふ」
「ちょっとぉ、笑てないでとってよぉ〜…」
「あ、とります、とりますすいません!ほんと!」
おでんまみれ。
ほんとに、申し訳ない。
マンションのエントランスからエレベーターに乗ってからも申し訳なくて、何度も何度も頭を下げた。
「これ、玄関汚れますよね、このままだと、ほんとすいません」
「足跡!ギャハハ!ジェジュンの足跡だけ、光っていますふふふははは!!」
「こらチャンミ、静かに!夜だよ?チャンミー!」
「あー……すっご、これー…管理人さん、おっこるじゃないかなー…」
「あっ拭きます!私、後で拭いときますから!気にしないで、どうぞ!上がってください!ほんとすいませんでした!!また改めてお詫びに伺いますので!すいませんでした!」
8階に着くや、私は降りてエレベーターに頭を下げる。
3人は口々に許しの言葉を述べてからエレベーターに連れられ、上がっていった。
ああ
ほんとになんで
私ときたら、あんなにツユだくにしてしまったんだろう。
ため息をついて部屋から雑巾を取ると、エレベーターを呼び戻す。
さっきまで3人が乗っていたエレベーターの中を丁寧に拭きながら、一階へと降りた。
エレベーターからエントランスまで、油で光る足跡を、床に両手をついて拭きながら進む。
シンデレラにでもなった気分だ。
膝がどんどん冷たくなる。
でも、きっと
こんなもんを浴びせかけられた彼はとても熱かったんだろうな。
冷たいくらいなんだ。
ああ、ツユだくなんてしちゃってバカバカ。私のバカ。
意外と広いエントランスを拭き終わると、あまりの寒さに耐え切れず、エレベーターに飛び乗って身を縮める。
そしてパネルに指を伸ばして、はた、とした。
彼の住む階の廊下も、きっと汚してしまってる。
それを彼に掃除させるわけにはいかない。早く拭いてしまわないと。
8階に伸ばした指を、15階に移動させ、押した。
15階の廊下は8階とさして変わらず、ただ、どの部屋が彼の部屋かは分からないので四つんばいになって床を良く見る。
さっきみたいに足跡が光っていればそこを辿って拭けばいいんだけど…
もしかして乾いちゃった…としても足跡は残るはず…。
目を細めて床を遠くまで見る。
かすかに汚れてる気はしなくもないけど…ぜんぜん…
「…はっは!?…なぁにしってますか!?」
「はぁ!?」
突然、背後から声をかけられて床に尻餅をついた。
色んな角度から見ているうちに背を向けていた、エレベーターから最寄りの部屋のドア。
そこから、笑いを手の甲で隠した彼が覗いていた。
「あ、えっと、足跡、たぶん、ここにもついてる…って、思って…」
「あー、さっき拭いたからもうないっすよ」
「あ、あ、そう、ですか、すいません!そんなことさせて、ほんとにすいません!」
「……………」
慌てて立ち上がりもう一度頭を下げ、顔を上げる。
無言で私の顔を見る彼は湯気を伴っていて、少し濡れた髪先からもシャワーを浴びたのが分かる。
私は慌てて後ずさり、もう一度頭を下げた。
「あ、ごめんなさい、冷えますから、もう、入ってください!またお詫び来ます!すいません!」
「……………」
彼はやっぱり無言で、私はいたたまれずにエレベーターに飛び乗った。
「あの、おやすみ、な、さっ…!?」
が、8階を押して振り向くと彼が居る。
いつの間にやら至近距離で、ボディシャンプーの良い香りを漂わせて
「あのっあ、えっ?えっ?」
「…動っかないで…」
慌てて開ボタンを押したまま壁際に背を付けた私へと 彼は遠慮なく近寄り、髪に顔を寄せ、その白い手を私の首の後ろへとまわす。
目の前には深いVネック。
そこから覗く胸板は、想像よりよほど厚い。
寒さでズルズル言ってたはずの鼻いっぱいに、清潔感のある甘い香りが充満して
このまま、この非日常に酔ってしまいそうになる。