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「え、え、やだ、なんで…っ」
置かれた電話に駆け寄ったけれど、受話器を持ちたいだけなのにうまく持てない。
数字を押したいだけなのに、指の震えが目的を定めない。
電話を諦めて携帯を持っても同じことで、たった3つの数字も押せない。
呼び出したい画面と違う画面ばかり現れる。
私が交番に入ったのを確認したからか、失速したまばらな足音は伺うように入り口に近づいている。
うまく押せない画面はスライドして、呼び出してはいけない名前が見えた。
交番の入り口から数歩離れた場所からは相談するような声がする。
「中、いる?」
「いや?…入る?」
「入るでしょ」
無理、もう、無理だ。
誰か
誰か
ああ、もう
ごめんなさい
もう
これしか
私は手の中のボタンを押し、心臓が張り裂けそうになりながらコールが終わるのを待った。
背後には、3人分の足音。
耳の中、途切れる音。
声を出そうと息を吸うのと同時
肩に手をかけられた私は、腕にかけていた袋を勢い良く振り回し、叫んだ。
「やっヒっ、ヒーローさんっ助けてええええ!!!!!」
「ぅうわっ!!!!!」
バチャっとみっともない音がして、中身が飛び散る。
肩に手をかけていた男は大半をその身に受け、あとの2人は素早く後退した。
私は腰を抜かしたような体勢で奥へ逃げ込んで携帯に叫ぶ。
「公園のっこっ交番にっお願いっ今っ」
「『ぅ、…わー…あつっ…えー、なにこれぇ…』」
「い…いま………い、え…?」
ぼやけた視界のなか映る3人のうち、後ろで惨状に口を開けたままの2人は見覚えが無い。
…いや、あるにはあるのだけれど、あの、1週間前の3人の、どの顔とも合わない。
そして。
惨状の真ん中で、顔をかばおうと上げていた腕を降ろす、その人は。
「……ひ、え…ヒーロー、…さん…?」
「『……ハーイ……』」
「っギャっハハハハハハ!!!!!」
2人のうち、背の高い方が発したバカ笑いをバックに
耳に押し付けた携帯の、外側と、中側へ。
まったく同じ返事をよこして、苦く笑った。