When become a hero, now
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思いつくなり、カバンを漁った。
携帯を引き抜く時、引っかかって落ちたメイクポーチから中身が飛び散る。
ガチャガチャ鳴る派手な音に3人が振り返った。
「っにしてんだこらあ!!」
そのうち一人が怒号を上げて、携帯のボタンを押す私に完全に体を向ける。
その声に私がビクついてボタンを押し間違えた時だった。
「てめ電話切れ、よ…っ…!?」
怒号を上げた男が急に私の方へ前のめりで滑り込んできた。
どう見てもおかしな体重移動と、かぶりを振って地べたに打ち付けた顔面でそのまま土を押し集めるような動作。
残りの2人が振り返った時、クラッシュデニムの足が膝を上げているのが見えて、目の前の怪我人が自力ではなく後ろから蹴り飛ばされてここに来たのを知る。
「ぉいこらあっ!!」
一人は彼に掴みかかり、もう一人は怪我人の方へ駆け寄ってきた。
慌ててボタンを押し直す私に気付いた男は、意識の無い怪我人を放ったまま私の携帯に掴みかかってくる。
「切れよ!切れよって!!離せやてめえ!おい!」
取り上げようとする男から携帯を奪われないよう背を向けて、私は悲鳴に任せ、通話口に叫んだ。
「…やっ…っ助けてくださいぃ…っ!襲われてます…!」
「ってめ、こらぁ!ざっけんな!!!」
すぐ後ろ、背中で聞こえる怒号は揺れて、何かをふりかぶっているのが分かった。
殴られる
一瞬の直感に肩を際限まですくめて壁にしがみついた。
「いっ……ってえええ!いて!はなっ!はなせよ!!いで!っでえ!!」
が、鈍い音と共に、私のすぐ横に怒号は移動している。
固く閉じた目を開けると壁に顔を押し付けられた男は半分泣きそうになりながら暴れていた。
押し付けているのは、パーカーの腕。
後ろ手にとった男の関節を無理な体勢に促し、ねじっていた。
「ケーサツ、早く呼んで」
「おいまっじざっけんなっ…て、いっでででで!!」
「早く」
うながされて、慌てて現在地と現状を口にする。
「急いで来てください、3人居ます、黒いTシャツで、ジーパンの、口にピアスあいてます!18〜20歳くらいの人と…」
目の前の男の特徴を次々に告げる。
やり返そうとしていた男の手の動きが、逃げようとする動きに変わった。
「いって、っちょ、まじシャレなんねーよケーサツとか!」
壁に押し付けられたまま焦る表情は「まずい」という様子で、遠くで倒れていた男も起き上がり、やべえと言い残して一目散に走り去った。
最初に倒れた男を助けるそぶりもなく逃げ出す仲間に、自由を奪われた男が助けろよと声をかけるが振り返りもしない。
「…ケーサツ、すぐ来る?」
「はい」
「ちょ、もう、いたっ!も、勘弁してくださいよ!まじで!ほんと…!」
「………あ、サイレン…」
「!!ほんと、もうしませんから!すんません!すんませんでした!!」
パトカーのサイレンが遠くから聞こえ始めると切羽詰まったのか、急に謝り始めた。
「まじですいません!すいません!!親とか泣くんで勘弁してください!!」
「………」
親、と聞いて、ようやく彼が腕をほどいた。
解放されると男は倒れそうになりながら駆け出し、やはり倒れている仲間には目もくれず走り去る。
「友達いいのぉ!?」
彼が声をかけても後姿は振り返らない。
そのうち足音も消え、姿は見えなくなった。
彼は置き去りの男に歩み寄り、ベルトからチェーンで繋がっているジーンズの後ろポケットに手を伸ばす。
出てきた長財布から学生証を取り出した。
「…はい、これ、ケーサツの人に見せってぇ…」
「あ、は、あの」
「なに?」
「あの、す、すいませ、ごめんなさ」
「…泣かないで、あの、もケーサツ来るんですよね?」
また泣き出した私に学生証を持たせて、彼がしゃがみこんだ。
ずっと聞こえていたサイレンが近づいてくる。
「あ、あの、ごめん、ごめんなさい」
「もー、落ち着いて?」
「ケーサツ、あの、よん、よんで」
「なにぃ?」
「よんでないです」
「え」
すぐそこまで近づいたサイレンは、車体を見せることの無いまま、ある瞬間を境に音を半音下げ
何事もなかったようにまた、遠くまで走っていって音を消した。
「………………」
「………………」
静寂が訪れ、彼が私を見つめた後、私の手の中の携帯に視線を落とす。
『ピっピっピっポーーーー…ン…ピっ…午前、0時を、お知らせします…』
見つめられる静寂の中、私の手の中から響いた、気の抜けるほど呑気な時報。
彼が私にまた視線を戻し、言った。
「…機械と喋ってどーすんのぉ…」
「……ご、ごめんなさい………」