When become a hero, now
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反射的に顔を上げると、いつ見たかは分からないが確実に見たことがある男の姿を発見する。
ニット帽に頭を隠して、裾からわずかに見える金髪。
暗い色のパーカーにクラッシュデニム。
肩には色数の多いボストン。
足早ではあるが何の変哲も無いその姿が、今の私にはヒーローのように感じられて…
おそらく血の気の無かった表情に少しくらいなら笑顔が戻っていたに違いない。
私の表情に気付いて、3人の男も振り返る。
ほら。あんたたち早く逃げないと、警察呼ばれちゃうわよ。
そう言ってやってもいいかもしれないくらいに気が大きくなってきた私も含め、一斉に集まった視線を連れたヒーローは
そのまま、左から右。
なめらかな動きで移動し
何事もなく穏やかに
それこそ何の変哲もなく
このトラブルの前を 通り過ぎていった。
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「…うわまじあせったー」
「なんだよビビらせんなよ」
「お姉さんガン見するから知り合いかと思っちゃったじゃん!」
3人、見合わせた視線を私の顔に戻し、さっきより余裕の表情でいやらしく笑う。
きっと私の顔もさっきより血の気が失せているだろう。
だってもう、正直、絶望で泣きたい。
誰も助けてくれないなんて、自力も出てこないなんて
ああ
とにかく、カードと貞操だけは守らなきゃ。
もちろん、命の次に。
「そんなさー怖がんなくてもさー」
「おれらそこまで悪くないし」
「ちょっと飲みに行こーって言ってるだけですよ、ほんとほんと、家まで送るし」
馴れ馴れしく肩に触れる手。
少しずつ侵略の度合いを強め、あちこちへ伸びる手から体と持ち物を守ろうと小さくなる。
腕ではなく体を掴まれて初めて、恐怖が現実に忍び寄っていた事に気付いた。
パニックになりそうな思考のまま、拒絶を言葉にするしかないと声を張り上げる。
「…ゃめてく、ださぃ…」
なのに、やっぱり声は震えてうまく言えない。
もう少しぐらい大きな声が出せるつもりで口を開いたのに。
土壇場ですらこうだなんて、こういうことに慣れてない自分が情けない。
「あっちに車あるからさー、とりあえず…」
「そーそー、このへんなんもないから」
「駅の方出ましょーよ、ね?あっほらちゃんと立って、お姉さん」
「ぃやです…!」
車、という言葉と、彼らが動き始めたことでいっそう危機感が募った。
引き寄せる手に反抗するため踏ん張ろうと小さくなって、搾り出した声が上ずる。
みじめさが際立って、抵抗する力もうまく入らない。
「うわーかわいそ、ちょっと泣いてんじゃん」
「泣くようなことまだしてねーし!」
「ほらーお前ら怖えんだって顔が!」
ゲラゲラ
また、笑う。
もう私はただ、運の悪さも、無力さも、惨めで惨めで。
泣くしかできないことにさらに傷ついて、うつむいた顔から落ちた涙が地面の色を変えるのを見つめた。
「ぅうわ!」
「うおなに」
「なんだよ…誰あんた」
その、地面に。
「…なにしてるんすか」
本当のヒーローが降り立ったことなど、今の今まで気付かずに。