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一番上の二人がケンカをしていたか何かで彼が駆け込んできた深夜、当時スタッフをしていた私しか事務所には居なくて。
マネージャーに泣きつきに来たという彼は、エレベータも止まったビルの中 事務所まで階段を駆けて来たらしく、私の居る休憩室まで来た時には汗でクセのついた前髪を額に貼り付けていた。
もう今にも泣き出しそうな顔で、私は座っていたソファを飛び上がり慌てて駆け寄った。
まだ日本語があまり得意じゃなかったから、私が何を聞いても理解できる返事は無く、宿舎に帰るよう勧めても無言で。
途方にくれる私に彼は一言だけ告げた。
『帰りたくないです』
あの時は、事務所が移転する前だったから家も事務所から近くて…
事務所に居るわけにいかないからと連れて帰ったこの日が、彼が入り浸るようになった最初だったと思う。
部屋で温かいミルクを渡したらようやく表情が柔らかくなって、一番上の兄さん二人がケンカしてるんです、と拙い日本語で教えてくれた。
日本に来てからうまくいかない事が多い、寂しいし悲しい。
この上、メンバーの仲が悪くなるなんて耐えられない、というような内容を悲痛な面持ちで呟いた。
聞いてるこっちまで悲しくなってしまいそうな表情に私は何も言えなくて…
まあ飲んで、と、酒を勧めるオッサンのように温かいミルクを注ぎ足し、彼の紡ぐ拙い言葉を、気が済むまで延々と聞いていた。
そうしているうち夜が明けて、早朝、彼が宿舎に入れた電話で一番上の二人が仲良く迎えに来た。
怒られるのが怖くてマネージャーさんにもチャンミンが飛び出した事を言えず、二人はケンカするのも忘れて近くを探したらしい。
…そういえば、迎えに来た二人がもうケンカしてないと分かった時のチャンミンの顔。
「予定通り」
そんな顔をしたから、玄関で隣に立ってた私も二人と一緒にビックリした。
じゃあ昨日の夜のあの顔は、あの言葉はなんだったの、と。
しかし帰る時、またお礼に来ますと振り返った彼の顔はとても愛らしい子供の顔だったから、私は今見た信じられない表情のことはすぐに忘れてしまった。
それから、それなりに長く日を開けて2回、3回、と彼の秘密の訪問が繰り返されるにつれ、事務所に秘密をもっていられなくなった小心者の私は、事務所が移転するとなった時に別の部署に異動を申し出た。
タレントと直接関わらない方が気が楽だと思い、業務内容ががらっと変わる部署を志願した。
だけどそれを待っていたと言わんばかり、彼は訪問の回数を増やし始める。
弟の顔で繰り返し訪れる彼と私の間には、それ以上のことなど何も無かった。
その関係に焦れていたのは私の方だったかもしれない。
年下の、しかも自分の会社が推すタレントに、なんて感情を抱いてるんだと葛藤していた。
家に来た彼に対しても弟に接するように扱いをぞんざいにする事で気を紛らわした。