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電話は、そう長くかからなかった。
久しぶり
どうしてた?
忙しそうだね
そんな些細な会話から、用件は何かと聞く前に、おれはなまえに約束を押し付けた。
『え、今日?今日はもう遅いし、明日は?』
『だめ、今日。今日がいい。お願い、迎えに行くから待ってて?』
みっともない懇願など待ち続けた今日までに比べればたいしたことではなかった。
なまえは押せば頷いてくれる。
それは充分知っていた。
そして現に、今。
車の前に立つおれに向かって、なまえは反対車線のマンションから歩いてきている。
急いで用意をしたのだろう、髪の先がまとまらずに外を向いていたり、素足にサンダルで寒そうだったりとなまえはかなりの軽装だ。
それでもおれの目には涙が浮かびそうになる。
あの日から今日まで、どれくらい思いを積み重ねたろう。
それさえ、なまえがひとたび口を開けば。
「こんばんは…久しぶり?」
「…ひさしぶり」
ほら、もう、思い出すことも無い。
記憶の中じゃなく、なまえは目の前にいる。
「さむ…夜んなったらめっちゃ冷えるわ…風邪とかひいてない?」
「うん………あ、乗って」
「あーありがと、おじゃまします…」
「…なまえ、明日早い?」
「ん?んーん…」
「…じゃちょっと…」
「移動する?財布持ってきてないよ」
「っはは、いいよ」
組んでいた両手を出し、携帯しか持っていないことを強調する彼女に笑いかけて、おれは車を出した。
半年ぶりに埋まった助手席。
なまえは反対を向いて曇った窓の外を眺めている。
「ほんと、久しぶりだねー…」
「うん、……どうしてた?」
「それなり元気にしてたよー。ジェジュンは?」
「……忙しかったあ」
「ははは、うん知ってる」
するすると信号を抜け、真夜中の誰も居ない道をあてもなく走る。
「よく見るもんねー最近…」
「テレビ?」
「とか、雑誌とか」
「はは…ラジオもやってるよ」
「まじで、いつ寝てんの。クマあるけど大丈夫?」
「大丈夫」
「事故んないでね」
心配と冗談を混ぜ合わせた彼女なりの気遣い。
半年ぶりの会話がやけにもったいなくて、おれは行く先を決めるのを何度も先延ばしにした。
なまえはドライブも久しぶり、と笑っている。
そのうちに、静かだね、とカーステレオを指差し、いい?となまえが聞く。
おれは頷いてボリュームを上げた。