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「…なまえ?」
『………はい?』
「……お待たせ」
『うん』
少し、笑っているのが分かる。
耳元でくすぐったいような響きで、なまえの声が寄せてくる。
手の中の細い細い糸が、ゆっくりなまえを引き寄せている。
「なまえ」
『なに?』
いつもの、優しい声。
僕はたまらなくなって、宿舎のドアの前から踵を返して階段を降り始めた。
「今から会いに行ってもいい?」
『今から?』
「だめか?」
聞きながらも引き返す気はなく、僕の足は2、3段飛ばしながら階段を駆け下りている。
その音が聞こえるのか、なまえは可愛らしい笑い声を含ませて言った。
『待ってるね』
愛しさを募らせる声。
幸せをもたらす、なまえの言葉。
僕はさっきとは別の理由で泣き出しそうになりながら、タクシーに向かって上げた手を降ろして見つめた。
そこに確かにある糸。
「…ありがとう」
泣く寸前のみっともない声でそう呟いて、僕は。
耳のすぐ傍、声だけで頷く最愛の選択肢へと
手のひらで赤く色づいた糸を手繰り、軽やかに 踏み出した。
END
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