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泣き出しそうなほど参っている声しか出なかった。
自分でも目を伏せたくなるほど情けない声で、僕は小さな携帯ごし、なまえに縋った。
また小さな音が通話を途切れさせる。
前の彼女がかけ直してきたのだとすぐに悟ったが、僕は携帯を確認することすらしなかった。
出るつもりはない。
だが、なまえにも新たな着信で通話が途切れている事が分かるらしい。
『…電話、かかってきてない?』
ため息が聞こえた。
「出ないよ」
僕は即答する。
細い細い、なまえとの間に垂らされた糸を手繰るのに必死だ。
これを離せばなまえという選択肢は僕の前から消え失せるのだろう。
「なまえ、なまえしかもう、選ばないだから…」
『………』
「許してくれないか?」
甘い言葉なんかじゃない、哀れなほど正直な、懺悔。
僕はなまえの言葉を待つ間に苦しさで死ぬんじゃないかと思うほど胸に窮屈さを感じた。
ぎゅっと、片手を握り締める。
『………私しか選ばない?』
「うん」
『私の電話にしか出ない?』
「うん」
『………』
「………」
『…そんな事しないでいいよ』
「なまえ」
『出て、そのキャッチ』
「なまえ、嫌だ、なまえ」
『出て』
「なまえ、嫌だ…っ」
子供のように泣き出しそうだ。
どんなに強く握っても、手の中をすり抜けていく糸が掴めない。
もどかしさに発狂しそうになる。
僕は先に続くなまえの言葉が怖くて、何度もなまえ、と名前を呼んだ。
けれどなまえは遮らせてはくれない。
『今すぐ出ていいから』
「なまえ、なまえっ…」
『出て、言って?』
「なまえっ…」
顔を片手で覆って、僕は泣き出す準備をしてしまった。
握り締めたはずの糸がもう見えなくなる。
無情な声のまま、なまえは続けた。
『もう、かけてくるなって』
「……っ……?」
『…ユノは、私の恋人だって』