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タクシーはいつの間にか宿舎の前に着いていた。
清算して降りると、携帯が鳴る。
僕はなまえの顔を思い浮かべて慌てて手に取った。
『ヨボセヨ?ユノ?』
「……ネ」
聞きなれた韓国語にうんざりする。
また彼女からの相談だ。
もう芸能界を辞めたければ辞めればいいじゃないか。
普通に結婚したいなら相手を探しに行けよ。
そう思っているのに、恋人としての短い思い出や同期の練習生としての情が言わせずにいる。
それどころか、宿舎であるマンションに入っても、わざわざ電波が途切れないよう配慮してエレベータではなく階段を選んで部屋まで歩こうとしている。
分かってるんだ。
こういう状況になまえはウンザリしている。
八方美人で、どっちつかずの僕。
なまえが大事なら連絡をとるべきじゃないんだ。
人生の岐路に彼女が立っていたとしても、僕はそれに関わるべきじゃない。
なまえか、彼女か。
二択の岐路に、いつの間にか僕まで立たされていたんだ。
『ユノとずっと付き合ってたかったわ』
不意に彼女が泣き出した。
階段を上がり終え 部屋に入ろうと鍵を探しながら、電話の向こうで空言のように呟いた言葉に眉をひそめる。
急に何を言ってるんだ?
『ユノのキャリアに嫉妬したり、自分を蔑んだり、ひどい思いをしたけど』
「なんだよ、それ」
『ごめんなさい、でも、ユノはこうしてあたしを今でも大事にしてくれるじゃない』
「それは」
『事務所、もっと早くやめてればよかったわね、あたし』
「………」
『きっとあの時は二択だった。夢か、恋人か。今は…夢を捨てたら何も無いの』
「………そんな」
『…ううん、夢だってもう、選択肢からは消えてるのかもしれない…』
急に
怖気が走る。
電話越しに自分が話しているのかと思った。
選択を間違えて岐路を通り過ぎた人間の、空言のような独白。
アノトキハ ニタク ダッタ
デモ イマハ?
鍵を探すのをやめて、宿舎のドアを見た。
ドアごしのなまえの顔を思い出す。
このままこのドアに入るしかないのか?
この生気の無い女の声を連れて?
そうしたら
もう
あのドアは開かないのか?
もう
なまえを選ぶ事は
…できない、のか?