I spill milk
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彼女はアスリートなんだろうか。
すぐ後を追ってドアを開けたのにもうそこには居なくて、なぜかエレベータと反対側の階段に向かってすごい速さで進んでいた。
「なまえ!なまえ!!」
呼び止めると階段を半階分降りたところで立ち止まる。
そしてこっちを見た顔は真っ赤だった。
残念ながら急に運動量が上がったせいではないようだ。
「ユチョン…あー、ごめん~~…」
なまえが急に謝りだす。
ジェジュンと二人のあの部屋で何かは確実にあったのだろう。
でもそれが何か分からないので些細な言葉でも不安になる俺がいる。
「いいからエレベータ行こう。車まで送るから」
なまえの手を引いて立たせる。
落ち着かせようと思ったのもあるが、落ち着きたいのはこっちのほうだった。
半階分だけ降りてエレベータに乗る間もなまえは恥ずかしそうにしている。
マンションから少し歩いて車に戻ると、なまえはさっきまで握っていた携帯をバッグに入れて後部座席に置いた。
髪を耳にかけて深呼吸を一つして車に乗り込む。
助手席を指差すので反対側に周り、隣に座った。
どうやら少し落ち着いたようだ。
「はあ~…ほんっとごめん。あの、嘘なの、用事」
「いいよ…わかってる。どした?」
「いや~…ごめん」
嘘つけなくて、と、何か言い辛そうにまた耳を赤くする。
俺はずっと考えていた一つの可能性を目の前から消そうとするが、なかなか消えてくれない。
「聞いちゃったの、ジェジュンから」
「……、」
やっぱり。
俺はジェジュンに話した事を悔やんだ。
「ていうか、あたしが先に言っちゃったとこもあるんだけど…」
「ユノが好きって?」
「そう、え、なんで知ってんの!」
分かるよ、と答える声が自嘲気味になった。
「…なんかね、ユノすっごく皆に優しいでしょ?」
「うん」
「今日もジェジュンにずっとつきっきりだったりとかしてさ。
頼もしいなあって。いいなーってジェジュンに言っちゃってね?」
「……」
「ユチョンも頭撫でられたりとかさ、してたじゃない。
そういうの見て、あーユチョンいいなーとか」
見てたのか。
ていうか俺にやきもちやくなよ。
「あたしもユチョンみたいにされたいって…」
俺に。
…俺にやきもち、やかないでよ。
やばい。泣きそうになってきた。
俺は別のところにあるはずの涙腺を、口の中を噛んで押さえる。
なのになまえの優しい声はどんなにユノに憧れを抱いてたか分からせて、泣けと言わんばかり揺さぶる。
ダメだ。
泣いちゃダメだ。
フラれるって分かってても泣くのはダメだ。
泣かないで、最後くらいちゃんと自分で言わないと。
いくらなんだって男らしくないだろ。
俺は口の中を強く噛んだ。
「そしたら、ジェジュンが…ユノはダメ、って」
「待って」
「なに、わ、ユチョ…泣い…」
「言わないで」
「ユチョン、」
「黙って、…言わせて」
なまえの手を取って、強く握った。
目を泳がせながら言葉を失うなまえの様子を見る。
ごくり、口の中で息を飲んでから 俺は口を開いた。
「………好きだよ、なまえ………あー……ごめ…」
口を開いたら結局涙はこぼれて、泣きながら喋っている俺がそこに居た。
なんてみっともない告白だろう。
人に先に言われて、自分で言う時には泣きじゃくって。
しかも、男らしいユノが好きだというなまえに。
無謀にも程がある。
だけど驚かせることもできない、取り繕うこともできない、無策の俺にこれ以上あるわけがない。
空気の重さに一度うつむいてしまったら、黙ったままのなまえを見ることができなくなった。
なまえの言葉を待つけれど、一言だって返ってはこない。
困っているのか。
そうだろうな。
さっきの今だ。素直ななまえには考える時間が短すぎたに違いない。
傷つけない返事を検索中、ということか。
俺はうつむいたまま呟く。
「いいよ、思ったこと言って」
「………、」
「知ってた、でしょ」
「……え」
「ジェジュンに聞いただろ?」
「…っ?えっ?」
なまえの声が明らかに動揺した。
そこで?
いまさら?
違和感に顔を上げる。
なまえの顔はさっきよりずっと真っ赤だ。
そして、たどたどしい口ぶりで信じられない事を言った。
「ジェジュっジェジュン、から?」
「………」
「え、聞いてない、そんな話、してない…よ…?」
「………………え」
なまえの言葉で、俺は自分が真っ白になったように感じた。