I spill milk
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
快晴の空の下、車の中でなまえはしきりにどうしようと呟いている。
俺はその様子に笑いを隠せない。
「あたし料理あんまりうまくないの」
部屋を出て、マンションのエレベーターを待つ俺の横でなまえが呟いた言葉だ。
顔を見ると、絶望的、という様子だった。
ならなぜ引き受けたんだ。
自分もできないと言えば料理まで押し付けられずに済んだろうに。
そう聞くと
「だってなんかかわいそうじゃん、見捨てたら!」
かわいそうなのは今のなまえの表情の方だ。
そう思ったら笑ってしまった。
そして彼女が今心配しているのは、うまくできずに恥をかく自分の事ではなく うまくできなかったそれを食べさせられるジェジュンの事だ。
そういうところが本当に好きだと思う。
デートは潰れたけれど、実はなまえの魅力を知るためのイベントに変わっただけじゃないかと考えるのはポジティブすぎるだろうか。
「…とりあえず、食べられればいいよね!」
「うん、食べられれば」
「よし、頑張ってみよう!」
大型のスーパーの立体駐車場に、半分やけになったなまえの決意が小さくこだました。
やけになるほど自信が無いなら、コンビニで適当に買えばいいのに。
思いはしたものの、なまえが真剣に悩むので俺はニヤついてしまって、あえて黙ることにした。
「ただいまー」
「お邪魔しまーす…」
「おかえり、ありがとねー」
「…かえりー…」
部屋に帰ると、タオルと洗面器を持って部屋に入るユノが顔だけ覗かせて返事をした。
ジュンスはリビングでゲームに熱中している。
この方が静かでいいというユノの配慮だろう。
「えーと…」
「あ、こっち」
所在なさげななまえを呼んで、キッチンに来てもらう。
俺はすぐに買い物袋を開けて解熱用のシートを取り出し、ジェジュンの部屋へ行こうとした。
「え、ユチョン、ちょ、」
なまえに呼び止められる。
キッチンを勝手に使っていいのか、と聞きたいようだが料理への不安もあいまって挙動不審気味だ。
俺はまた笑ってしまう。
「あー、道具、場所、僕もわかんないから、いいよ。なまえ式で」
「えええ~」
「ジェジュンしか使てないから」
それだけ言ってすっと離れた。
なまえがまだ困ったような表情のままこっちを見ているのが分かる。
頼られている快感にニヤニヤしながらジェジュンの部屋を開けた。
「大丈夫?」
「あー、いま寝てる」
ユノにシートを箱ごと渡して隣に座った。
すぐに寝返りで落ちてしまうタオルを、ずっとつきっきりで見張っていたらしい。
ありがとう、と箱を開けて早速取り出している。
俺が持ってきてよかった。
ユノの律儀で面倒見がいいところは俺も男らしいと思っている。
憧れにすら感じていたりもする。
だからこそ、なまえに見られたら俺はよけい不利になってしまう。
ユノがタオルを外してシートを貼ると、冷たさにびっくりしたのかジェジュンが起きた。
「…わー、びくりしたー…」
「声、シワクチャだな」
寝起きのせいか声がひどかったので、ユノが苦笑いした。
「ご飯と薬、なまえちゃんが用意してくれてるから」
「なまえ?だれ?」
「ユチョンと前にきた…」
「……ああ、あー…」
疲労感たっぷりにジェジュンが頷く。
そして俺と目が合った。
大丈夫?と聞きながら近くに寄っていく。
そして、これはジェジュンに言っておいてやらないといけないと思い、気のきいた言葉を探す。
「ジェジュン、なまえ…料理ダメって」
「ダメ?」
「下手って」
「あー…ははー…」
探したわりに身も蓋も無かった俺の言葉に、ジェジュンが残念そうに笑う。
でもいーやー、と笑っているので、それなりに諦めているようだった。
ユノは笑いもせず残念そうな声を出している。
こういうところはなまえに見て欲しいところだ。
ユノは実力に対する評価がシビアだ。
固い男なのだ。
しかもジェジュンにごめん、と謝っている。
さりげなくなまえに失礼だ。
「作るの見てくる」
ユノが立ち上がった。
またよく分からないところの空気を読んだらしい。
料理ができない俺たちが見張ってなんになるというのか。
しかしこの状態のユノに見張られていれば、なまえもうんざりして諦めるかもしれない。
恐らく失礼なことをたくさん言われるだろうが。
そこは耐えて頂きたい。
…なんだか自分こそ失礼で卑怯な気もするが。
そこはなんとかごくりと飲み下して、ユノをキッチンへ見送った。