その男、煉獄杏寿郎【上】
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煉獄家に到着してからが大変だった。
楓の家も生活に困らないそこそこの中流家庭。
しかし煉獄家は、帝都にもほど近い、お役人様のような広さの屋敷。
敷地内には、春を待ちわびているような大きな桜の木。
そして…父、槇寿郎の存在。
般若のような恐ろしい顔の槇寿郎に挨拶をする。
楓の挨拶の返答も、言葉もなく、煉獄一人を睨みつけている。瞬きもする間に煉獄は父に殴られていた。
日が暮れるまで、それは続いた。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
楓は離れ屋敷に案内されていた。飛ばした鴉の手紙を読んだ、弟の千寿郎が〝匿った〟と言っても過言はない。
初対面の二人だが、楓は煉獄によく似た顔の、とても穏やかな千寿郎に安心感を覚えていた。
千寿郎は、煉獄家、鬼殺隊、母の存在、兄の事、 父の事、あらゆる事を分かりやすく説明してくれた。
聡明な千寿郎の予想通り、何も聞かされていない楓の事を少し、不憫に思っていた。
ガラガラと戸が開く音がする。
その音を聞き、二人は顔を見合わせ、急ぐ。
玄関先には、別人のようにあちこちが腫れ上がり、血を流すとても痛々しい姿の煉獄がいた。
「父上は任務に向かわれた!」
何事も無かったように話す煉獄に、二人は焦り、戸惑う。
しかしその言葉は、痛々しい煉獄の姿を見て硬直している二人を、その呪縛から解いた。
楓「杏寿郎さん!」
「兄上!」
二人はほぼ同時に煉獄に駆け寄る。
楓「血が…」
「すぐに手当を!」
そういう二人を尻目に、
「俺は大丈夫だ!」
その時、バサバサと羽音をたて、煉獄の肩に鴉が止まる
「杏寿郎サマ 御館様サマ カラ 手紙 預カッテ 来マシタ」
「うむ!ありがとう!」
煉獄は御館様からの手紙は初めて受け取った。
煉獄の鎹鴉の
手紙に目を通し、一言。
「今晩は非番を頂いた!」
それだけ言うと、糸が切れたように二人に向かって倒れ込んだ。
非力な二人には、煉獄のその鍛え抜かれ、全身が筋肉で出来ているような身体を支えきれるはずもなく、三人で倒れた。
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二人は苦労し、煉獄を床へ運び、また手当をした。
楓は心が痛くなった。時折
そんな楓献身的な姿を、兄の酷い姿を見た千寿郎もまた、心を痛めていた。
夜が明け始める。
楓が重く、口を開く。
楓「千寿郎さん。申し訳ございません。杏寿郎さんが…。申しわけ……ございません……。」
楓「…私は…。私はここに……居ては…………せん……。」
酷く
「兄上が選んだ道です。どれ程の険しい道でも、兄上は前を向き、進むと思います。」
「かな…鴉から受け取った手紙には、〝楓を連れて帰る〟その一言だけ書いてありました。」
「兄上は…昨日、楓さんの見舞いから帰った時に、僕に話をしてくれました。女性の事を嬉しそうに話す兄上は初めて見ました。」
「楓さんの事を、堪らなく想っているのだと思います。」
「楓さん。兄を、杏寿郎の事を信じてくれませんか?」
煉獄と同じ、真っ直ぐで綺麗な炎の様な瞳。
楓は千寿郎の、兄をひたむきに信じ、迷いのないその言葉に心が揺れる。
突然に手首を掴まれる。
痛々しく、苦しそうに眠っている煉獄が、まるで
「行くな」
と、言っているように掴む。
ギリ、ギリ、と少しづつ力が込められていく。
楓「いたっ…!…きょ、杏寿郎さん、痛いです…!」
楓の細い手首など折れてしまうのではないか。と心配になり千寿郎が声を出す。
「兄上!」
その言葉が聞こえたのか、聞こえてないのか不明だが、煉獄は力強く楓を抱き寄せる。
「兄上!!そ、それはいけません!楓さんを離してあげて下さい…!!」
千寿郎は、気恥しさもあるが…何より楓の手首が折れてしまうと、心配が勝った。
千寿郎がどれだけ四苦八苦しても、楓がどれだけもがいても、煉獄は握った手を、抱きしめた腕を、離さなかった。
ふと耳元で、呟くような、囁くような、今にも消えそうな声が聞こえた。
「いく……な……。」
それは千寿郎にの耳には聞こえなかった。
楓の耳にだけ届いた煉獄の
もがくのをやめる。
楓「千寿郎さん、……少し…恥ずかしいですが…。このままで大丈夫です…。」
顔を赤らめそう伝える楓の姿に、千寿郎は狼狽え ぽつりと返し、母屋へ戻って行った。
