その男、煉獄杏寿郎【上】
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煉獄杏寿郎という男には、千寿郎と言う弟がいる。
それは聡明な弟だ。
ガラガラと引き戸を開ける音がする。
「戻りました!」
千寿郎はその一声で嬉しくなり、玄関にかけていく。
「兄上!おかえりなさい!今日はいつもより遅かったですね?
「うむ!いつもありがとう!頂くとしよう!」
「はい!ただいま準備を!」
足袋を脱ぎ、父の元へ向かう。
「父上!戻りました!」
父、槇寿郎は返事もしない。だらしなく片肘をつき横になっている。その脇には本らしき物も乱雑に置かれている。
その様子に煉獄は少しばかり心に痛みを感じた。
父、槇寿郎は、まるで誰の存在もないように、背中を向け続けた。
「失礼します。」
煉獄はその言葉を残し父の部屋から立ち去った。
┈┈┈┈┈台所から良い匂いがしてくる。そのとても美味しそうな匂いに誘われる様に、向かう。
「兄も手伝おう!」
千寿郎に声をかける。
それを聞き、
「それでは兄上、こちらを運んで下さい。一緒に召し上がりましょう。」
なかなか時間のとれない兄弟が、こうして一緒に食事をする事が、二人にとっての幸せでもあるようだ。
┈┈┈┈┈┈┈
「うまい!」
「うまい!!」
「うまい!」
「うまい!!」
煉獄は、用意された食事をどんどんと平らげていった。
「ところで兄上、ここ数日、日が出ているうちは毎日どこかへ行かれているようですが…稽古ですか?」
「稽古ではない!見舞いに胡蝶の所へ行っている!」
それを聞いて千寿郎はヒヤリとする。
「見舞い…ですか…?隊士の方が酷いお怪我をされたのでしょうか…?」
「怪我はない!先程目覚めた!それに隊士ではない!」
千寿郎は驚いた。
「兄上…。聞いてもよろしいですか?」
「なんだ!」
「見舞いに行かれていると言うのは…」
「うむ!先日鬼に襲われていた所を助けた女性だ!」
その言葉に千寿郎は更に驚き、また困惑した。
今まで兄が、一般の女性の見舞いを、ましてや連日通っている事など一度もなかった。
箸が止まっている千寿郎に向けて煉獄が言う。
「千寿郎!頼みがあるんだ!」
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
「承知しました。兄上の頼みならば腕をふるいますね!」
千寿郎は答えた。ただ兄の願いは、今までにはない願いだった。
その見舞っている女性と
兄の好物でもあるが、その女性もさつま芋が好きだそうだ。と嬉しそうに話している。
千寿郎は、女性の事で嬉々として話している兄を、初めて見た。
確信はないが、兄本人も気付いていないその気持ちに、聡明な千寿郎は気付いていた。
嬉々として話すの兄を見て、千寿郎もどこか嬉しい気持ちになっていた。
「ところで兄上、その女性は何と言う名前なのでしょうか?女性と呼ぶのはなんだか…。」
「知らんな!!」
頭がクラクラした。
連日見舞いに行き、目が覚め、食事の約束もし、嬉々とし話している。その相手の名前も聞いていない兄、杏寿郎に頭を抱えた。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
煉獄が帰った後、昼も三時が過ぎた頃に屋敷の一人が様子を見に来てくれていた。
合間のお喋りはとても楽しく、楓の気晴らしになっていた。
楓がまだ14になったばかりだと伝えたら、驚いていた。もっと幼く見えていたようだった。
話しているその子は、思い出した様に「少し待っていて」とどこかへ向かった。
しばらくすると、たらいに、手拭い、両手に荷物を持ち、戻ってきた。
楓が不思議そうに眺めていると、
「楓さんも三日三晩眠っていたので、汗でお身体が気持ち悪いでしょう?」
丁寧に髪を梳き、身体を拭いてくれる。
とても気持ちが良い。
「さっぱり出来ましたか?」
「連日、煉獄様も見舞いにこられていたので、なかなか時間がとれず、遅くなってしまいましたね。」
「そういえば…煉獄様が隊士でない方の見舞いを連日欠かさず来るのは…とても珍しいですね…?」
その子はただただ疑問に思った事を口に出しただけの様だ。
楓(連日見舞いに……??)
楓の頭の中は、その言葉でいっぱいになる。
先程の、息が感じられる程の眼前にあった煉獄の顔を思い出し、さらに顔が熱くなるのを感じた。
日が暮れ始めている。その夕陽は、煉獄を思い出し紅潮している楓の顔を、優しく隠してくれていた。
「あら、もう夜が来ますね。こちらを片付けて準備しますね。」
その子がいい終わると、手早く片付け、両手に荷物をかかえ「少し待っていて。」と出ていき、足早に戻ってくる。
「目覚めてから初めての夜は一人で心細いと思います。鬼は藤の花が嫌いです。」
「藤の花の香を焚きますから安心して下さい。行燈もこちらに置きましょうね。」
「勿論、ここには絶対に鬼は来ません。しのぶさんのお屋敷ですもの。」
にこにこと、また手早く準備をしてくれた。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
外はすっかり夜の闇に包まれている。
しかし楓は不思議と不安は感じていない。
藤の花の香のおかげか、先程の子が安心する様な言葉を掛けてくれたからかは、わからない。
ベッドの横に置かれた机の上には、行燈の優しい光が揺らめいている。
楓はその優しく揺らめく行燈を眺め、またその中の火を思いながら 煉獄の事を考えていた。
考えるだけでも、少し思い出すだけでも、頬が熱くなるのを感じる。
思わず煉獄の名を呟く。
煉獄を想い、優しく揺らめく行燈に照らされ、楓はゆっくりと眠りに落ちていった……。
