その男、煉獄杏寿郎【上】
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しばらくの沈黙が続く。
何か話さなければ。と、楓は少し焦りを感じた。胡蝶に何も聞けず、聞きたい事は山ほどある。しかし言葉が出てこない。
先に口を開いたのは煉獄だった。
「さつま芋は好きか!」
突然の〝さつま芋〟に面を食らった。
楓「…は、はい?さつま芋ですか?」
「うむ!さつま芋だ!」
楓「さつま芋…。」
「好きではないか!」
さつま芋が嫌いな訳では無い。むしろ楓の好物だ。
楓「いえ。さつま芋は好物です!」
楓は、突然出てきた〝さつま芋〟という言葉に驚いたが、驚いた反面、ほわほわと気持ちが緩いでしまう。
先程の咄嗟についた嘘の言葉とは違う、煉獄のように快活といえなくても、素直で無邪気な返答をした。
「笑顔が出る程に好物なのか!俺と同じだな!」
楓は笑顔が出ていたらしい。
その笑顔は好物の話だから出た笑顔ではない。煉獄の突拍子もない質問で〝ほわほわ〟と気持ちが緩いだからだ。楓も気付かないうちに出た笑顔だった。
「では、明日の
楓「はい!」
煉獄の笑顔に当てられて、楓も自然と笑顔で、素直な返事をしていた。
何よりその気遣いが嬉しかった。
家族の事は何も聞けていない、この先の事も何も決まっていない。そんな不安定な楓には、煉獄の突拍子もない言葉が救いになっているようだ。
明日の
見送りは不要と、一度断られてしまったが、楓は引き下がらずに見送ると言い張った。
数歩後ろを付いて歩くと、煉獄の大きさに圧倒された。
町でも滅多に見かけない背の高さだ。それに姿勢もいい。それが煉獄を余計に大きくみせているのだろうか。
その姿勢正しき美しさに見とれながら歩いていると、目の前が白黒としはじめた。
楓は、…倒れる…。そう思った。
それでも倒れる事はなかった。
楓の数歩前を歩き、こちらは見ていなかったはずの煉獄が支え抱えてくれている。
楓は慌てて、弱弱しく煉獄に謝罪をする。
楓「煉獄様…。申し訳ございません…。」
「構わん。気にするな。先程もそう言ったはずだ。」
┈┈またあの優しい声だ。
煉獄は、そのまま軽々と楓を抱きかかえ元きた道を戻って行く。
「俺の前で無理はしなくていい。」
その口調は優しさだけではない様に感じた。
少し、ほんの少しだけ怒っているのであろうか。それとも呆れているのであろうか。
楓にはわからなかった。
戸惑いの中、そのままベッドに寝かされる。
先程の様に触れるでも無く、無言のまま見下ろし、見つめてくる。
申し訳ないという気持ちで心が溢れそうな楓は、炎の様な綺麗な瞳を見つめ返していた。
今度は気の所為ではない。
楓の見つめる瞳は少しだが、確実に揺らいでいる。
楓「…煉獄様…?」
そう解いても答えない。
楓「…私、ご迷惑ばかり……」
言葉の途中で煉獄の手が楓の口を塞ぐ。
「何故君は謝ろうとばかりする。」
「弱き人を助けるのは 強く生まれた者の責務。
俺の亡き母上の教えだ。」
「俺は君を守れた事を誇りに思う。」
立て続けに言う。
「俺は君に枷を嵌めてしまったか?」
「君は少年ではない。女性だ。」
煉獄の白い絹の羽織が、〝はらり〟と楓の顔の横に落ちる。
陽光と白い絹の羽織で出来た狭い空間は、まるで太陽の中に居るほどに光り輝いている。
その光り輝く狭い空間で、煉獄の揺れる瞳の熱い眼差しに…楓の心は熱くなっていくのを感じる。
熱くなっているのは心だけではない。塞がれている口元も、煉獄の瞳も、この白く輝く狭い空間も、この状況全てが楓を熱くする。
「む!顔が赤いな!」
煉獄が言う。
生娘の楓は、家族以外の男性がこんな眼前に迫って来たことは勿論ない。
楓はより一層、頬を赤らめた。
その時、背後から声がする。
「煉獄さん?。何をなさってるのですか?」
「楓さんは先程目覚めたばかりですよ?」
「弱っている女性を手篭めにするのが趣味なのですか?」
「煉獄さんがご自身と結納もしていない女性に手を出す、そんな人だとは思いませんでした。」
「煉獄さんは楓さんの事が好きなのですか?それならばしっかり段階を踏んでからにして下さい。」
「そ れ と !!私の屋敷でそういった事をしないで下さい。」
捲し立てる様に煉獄を責めるその声は、胡蝶の声だった。
煉獄がその声に驚き、楓を塞いでいる手を離し、振り返り、言う。
「胡蝶か!何の話をしているんだ!」
この言葉には責め立てた胡蝶も、驚き目を開く。
疚しいこと等、隠している気配は一切感じない。
煉獄の身体が離れた為、楓の姿が胡蝶の目に入った。
楓は、初めて眼前に迫る男性の気迫よるもので驚いたのだろう。両手で口を押さえ、頬を赤らめている。
「煉獄さん。貴方がその様な殿方だとは思いませんでした。楓さんに接吻をしたんですね。」
静かに怒りを押さえながらも、確実に煉獄を責める。
「していない!」
ハッキリと、そして快活な声で答える。
胡蝶は、煉獄と楓を交互に見る。
煉獄は嘘をつかない、嘘をつけない事を、胡蝶は知っている。
しかし楓を見ると目を潤ませ、唇を両手で覆っている。先程は顔色が悪かったはずなのに、今はまるで熱が出ている様に顔が赤い。
胡蝶は何が起こったのか理解が出来なかった。
嘘をつけない煉獄が言うならば、接吻はしていない。
しかし楓の顔をみると、嘘をつけないとわかっていても煉獄の事を疑ってしまう。
「うむ!誤解はとけたようだな!」
何も言わない胡蝶に煉獄は言う。
負けじと胡蝶も続く。
「誤解はとけていませんが、…わかりました。今日は目を瞑る事にします。ですがここはうちの子達も行き来するので、誤解と仰るなら誤解されるような事はしないで下さい。いいですね?」
「うむ!承知した!」
「ではまた明日見舞いにくる!」
そのまま煉獄は部屋を後にする。
胡蝶も一言二言楓に声をかけ、部屋を後にする。
二人の会話がまるで聞こえていなかった楓は、まだ両手で口を覆い、頬を赤らめていた。
