その男、煉獄杏寿郎【上】
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隠の方の話を聞いた。
怪我は無くとも、一時的に匿い、療養をする事。
家は修繕か、又は別の土地に住むか。それとも頼れる親戚がいるならば、そちらに住むでも構わないという事。
その際にかかる費用は心配せず、後悔のないように決める様にとの事。
療養中に考えてくれれば良いとの事。
家族の葬儀は…。匿う為、自宅での葬儀は出来ないという事。
家族の顔を見、最後の別れをする事は出来ない事。
そして、もう家族の遺体はこの家から運び出されている事…。
ここまで聞いて、楓の意識は遠のいていった。
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目が覚めた時、楓はベッドの上にいた。
酷く身体が重く感じた。その重い身体を起こし、ボーッと虚空を眺めていた。
「あら、目覚めたのですね。気分はどうですか?」
声のした方へ顔を向ける。そこには女医…が立っていた。
医者にかかったのは、幼少の頃に一度だけ。それ以来だ。今目の前にいる医者は、落ち着いた雰囲気の、小柄でとても綺麗な方だった。
楓「…はい。気分は……わかりません。酷く身体が重たいです。……昨日の事は…。夢ではないのですね…。」
そう言い終わると女医は
「楓さん。〝先日〟の事は夢ではありません。……楓さんは3日間眠っていたのですよ。きっと身体が重いのは、その所為もあるかも知れませんね。」
女医の発言に動揺した。ハッキリと夢でないと告げられた。あげく3日間も眠っていたと。
しばらく女医と話し、その女医は自ら、鬼殺隊〝胡蝶しのぶ〟と名乗った。
大人びて見えた彼女は、楓とさほど歳が変わらないとも教えてくれた。
胡蝶は、…正確には医者では無いが医療にも精通しているらしく、屋敷の離れでは鬼に襲われた楓の様な一般市民を、母屋では任務で怪我を負った鬼殺隊の隊士達の看病をしているとの事だった。
ただ、常日頃多忙な為、屋敷にずっと居るわけではないそうだ。
「身体に傷はなくとも、心の傷は癒えるのに時間がかかります。3日間目を覚まさなかったのもおそらく心の問題かと…。ここにずっとは居させてあげる事は出来ませんが、楓さんもしっかりと目覚めたようですし、うちの子達にも合間をみて来るように伝えておきますね。」
そうにこにこと微笑みながら胡蝶は伝え、部屋を後にした。
楓は聞きたいことが山ほど有ったにも関わらず、何となくひとつも聞けずに見送った。
仕方なくまた横になり考えていた。
楓(心の傷……。3日も寝ていたなら埋葬は終わってしまっているのかな……。駄目と言われても最期はやっぱりみんなの顔……見たかった……。)
(……住む所は……。あの家には家族との思い出がたくさんある。でも……。もう…あそこへは……)
そこまで考えると途端に涙が溢れ、それと同時に恐怖も湧き上がってくる。
鬼に襲われた時は呆然としていたが、
父の最期の言葉。父が投げ飛ばされた瞬間。壁に打ち付けられる音。打ち付けられた父の惨い姿……。
そして……鼻腔の奥にこびりついているような血のにおい。
全てが鮮明に思い出せる。思い出してしまう。
いつの間にか身体が、全身がガタガタと震えて吐き気さえ催している。
楓(恐い…。一人でいるのが怖い…。)
楓は掛け布団で全身を包み、身体を丸め、両手で口を覆い、一人恐怖心と孤独感、喪失感、また吐気と戦っている。もがき苦しみ、、そのうちに泣き疲れて眠ってしまったようだ。
┈┈┈目が覚めると、そこは暗闇だった。息もしずらい。瞬く間に先程思い出していた恐怖心が湧き上がってくる。寝惚けているのか、恐怖心からなのか、勢いよく飛び起きる。
楓「……!!眩しっ……!!!」
あまりの眩しさに目を強く瞑る。目を瞑っていても瞼から陽光を感じ取れる。
しばらくその状態から目を開けられずに悶えている。
「うむ!元気そうで何よりだ!蝶屋敷に寄ったら胡蝶から目が覚めたと聞いて会いに来たが、これでは顔を見れんな!」
突然の大きくハッキリとした声に驚き、身体が跳ねる。
「驚かせてしまったか!申し訳ない!子供のように丸くなって眠っている様子だったからな!声はかけずにいたんだ!」
楓(この声は、間違いない……。)
楓「煉獄様…!」
「うむ!如何にも!!」
楓「申し訳ございません!寝惚けていたようで…。目が…。」
「構わん!気にするな!」
楓「はい…。」
突然の煉獄の声に驚いたものの、その煉獄本人の大きな声は快活で、瞬時に恐怖心は無くなった。
陽光の明るさに慣れてきた頃、薄く、また少しずつ目を開け、声のした方へと顔を向ける。
だんだんとぼやけた視界の中に、黄色くキラキラとした髪が、こちらを見つめているであろう力強い眼差しが見えてくる。
「目が腫れているな。」
煉獄が静かに落ち着いた声で言う。先程の快活さはなく、とても、とても優しい声。
「泣いていたのか。」
ふわっとした暖かい温もりを頬に感じた。
煉獄の手が楓の頬を優しく触れていた。
楓の腫れ上がった目を、まるで壊れ物を触るかの様に優しく、そしてゆっくりと、親指でなぞる。
触れられたまま答えもせず、煉獄を見つめ…その頬にある優しい煉獄の温もりを、指先の感覚を、受け取っていた。
見つめ合っていると、煉獄の力強い眼差しの中、炎の様な綺麗な瞳がほんの少し揺らいだ気がした。
それを見た時に楓は我に返り、返答しようと口を開いた。
楓「煉獄様。大丈夫です。泣いてはおりません。眠りすぎたのでしょう。」
咄嗟に嘘をついた。
何故素直に泣いていた事を、恐怖に震えていた事を伝えなかったのか。
(「泣いていても始まらない!時は寄り添い泣いてはくれない!前を向け!少年!」)
この言葉が楓の心の中で木霊する。少年と間違われた事が心に引っかかっている訳ではない。ただ煉獄のこの言葉は楓の心に深く刺さっていた。
煉獄の前で泣いては駄目だ。繕うように、心を見透かされぬ様に必死に虚勢を張った。
「そうか。」
そう一言だけ言うと、そっと楓の頬から手を離した。
このまま煉獄に見つめられると心の中まで見透かされ、虚勢に気付かれてしまうと感じ、頬から手が離れたと同時に目線を逸らし、落とした。
