その男、煉獄杏寿郎【上】
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夜の闇は、太陽の力強い輝きに 消え始めていた。
楓は、ぐっすりと眠れているようだ。
藤の花の香はとっくに消え、灰となっている。
行燈の光も、最後の力を振り絞るようにゆらゆらとしている。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
「ぐっすり眠れているようだな。
任務も終え、一息つくように、ベッド脇の椅子に座っている煉獄の姿だった。
楓の寝顔をみながら語りかけるように続ける。
「任務を終えたら、ここに足が向いていた。」
煉獄の手は、そっと楓の頬に置かれている。
「目の腫れもすっかり引いたな。」
その手は楓の瞼を優しく指でなでる。
煉獄は、優しく微笑み、寝ている楓を見つめている。
しばらく見つめ、陽光が刺し始める頃に
煉獄は楓を起こさない様にそっと帰路についた。
それはほんの、ほんのひとときの時間だった。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
窓からの眩しい陽射しで楓は目を覚ます。
楓(ぐっすり…眠れた…。)
まだ寝惚けている楓は目を擦り、伸びをする。
幾分か心が晴れているようだ。
楓(今日、煉獄様と
楓は起き抜けに煉獄の事を考えていた。
ハッとした。無意識だった。
楓は両手でパチンと自分の頬を叩いた。
楓(私は何を考えているの…!)
楓(…顔を洗わないと……。)
┈┈┈┈外の水場で顔を洗っていると、聞き馴染んで来た声がする。
「あら?楓さん。おはようございます。昨日より顔色も良さそうですね。」
楓「胡蝶先生…!」
楓は胡蝶を見ると、ドキッとした。
酷く疲れた顔をしているのが見てわかる。
楓「私は大丈夫です。ですが、胡蝶先生の方が…」
胡蝶が被せる様に続ける。
「私は大丈夫です。昨夜も鬼を倒して来ましたよ。」
疲れた顔に貼り付けた様な笑顔を見せる。
楓(…胡蝶先生は、不安にさせない為に…してくれてるのかな……)
そう思いながら
楓「はい!鬼を倒してくれてありがとうございます!」
深くお辞儀をしながら、礼を言う。
胡蝶は少しだけ驚いた。昨日目覚めたばかりの、家族が鬼に殺されたばかりの。
自分と歳も変わらない、訓練も鍛錬も積んでない普通の女の子が。自身の不調を見抜き、礼を述べている。
「楓さん。胡蝶〝先生〟はやめて下さい。そうですね、先生だけつけないで頂ければ、好きな様に呼んで下さい。」
先程よりほんの少し、自然な笑顔で胡蝶は告げた。
楓「はい!では…。うーん?胡蝶さん…?。……あっ!…しのぶさんと呼んでもよろしいでしょうか!」
クスッと微笑みながら胡蝶は頷く。
楓「ありがとうございます!しのぶさん!」
「はい。…では、楓さん、まだ休んで下さい。これは〝先生〟の診断ですよ。」
二人はくすりと笑い合い、そして「また後ほど」と各々の部屋へと戻った。
┈┈┈┈┈┈次に楓が目を覚ました時は、太陽が空の真上近くまで来ていた。
楓「…あれ?すっかり…寝ちゃってた?」
昨晩ぐっすり眠れたはずが、たっぷりと二度寝をしてしまっていた。
明るくは振る舞うようにしている楓だが、まだ本調子ではない。
それは当然の事だ。
そこへ両手に風呂敷いっぱいの荷物を持った煉獄が、タイミング良く来た。
「起きていたか!」
相変わらず、煉獄の声は快活で気持ちがいい。特に寝ぼけ眼の楓には、頭が冴え渡る様な感覚さえ感じていた。
「病室で食べるのもこの量だ!胡蝶に別室を借りるとしよう!」
楓「…煉獄さ、ま?まさか…その両手いっぱいの荷物……えぇ?……」
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
「良い所を借りれたな!」
その部屋は、良く陽が当たり、風も通り、立派な床の間のある客間だった。
「煉獄様、楓さん、お茶をお持ち致しました。」
そう言い襖を開けたのは、昨日髪を梳き、身体を拭き、午後ひと時を一緒に過ごしたあの子だった。
楓「あっ!昨日はありがとうございました。おかげでぐっすり眠られました。」
手をつき、礼を言う。その子はやめて下さいと笑っていた。
「君のおかげで楓はあんなにぐっすり眠っていたのか!ありがとう!」
突然煉獄が言い出す。
楓とその子は、まるで何の話か?と今にも言いそうな顔をし、煉獄を見ている。
「さて!食べるか!一緒にどうだ?」
煉獄は、二人が不思議そうな顔をしてるのも気にせずあの子も誘う。
「いえ、私は。お二人でお過ごし下さい。」
そう告げると、そそくさと出て行ってしまった。
楓(ぐっすり眠っていた……??)
楓は煉獄の言葉を考えていたが、やはりわからなかった。聞こうとした時に煉獄が先に口を開いた。
「さぁ!食べよう!」
煉獄が風呂敷を広げると、何段あるかもわからない重箱が2つも出てきた。
次々と並べ、広げられる重箱は、どれもこれも美味しそうで、色とりどりに飾られ、詰められている。
さつま芋を使った料理も、さつま芋ご飯も。
一つの重箱の中身に大きくて立派な鯛の塩焼きも入っていた。
楓「わぁ…!凄く綺麗で美味しそうですね!こんなに…大変だったのではないですか?」
楓「鯛の姿焼きなんて…。まるでお祝い事みたいで嬉しいです」
「うむ!俺には弟がいてな!千寿郎と言うんだ。昨日のうちに頼んでおいたら張り切ったようだな!」
楓「弟さんがこれを全部…?凄い…。」
「そうだ!千寿郎から楓の名前を聞いて来て欲しいと頼まれている!」
楓「私の…名前……ですか?」
「うむ!楓の名前を聞きたいそうだ!」
楓は困惑しながらも答える。
楓「楓です…。……??。」
「そうか!いい名だな!」
名前を呼ばれながら、名を聞かれる。楓は初めての体験をした。
素っ頓狂な煉獄の質問は、楓を心から笑顔にした。
煉獄本人は大真面目に聞いているが、会話が噛み合わない。
それでも、その噛み合わ会話がとても、とても楽しかった。
