密かに惚れていたあのひと
平原での野宿の夜――スフレはふと目が覚め、テントから出て月が浮かぶ夜空を見上げる。
「この戦いが終わったらあたし、どうしてるかなぁ」
未来の出来事を考えると同時に、スフレは思わずヴェルラウドの事を考えてしまう。
「……できれば一緒にいれたらいいけど、ね」
ヴェルラウドへの想いを呟くスフレ。再び寝ようとするものの、そよ風が心地良く感じて川の方へ向かう。蛙の鳴く声とせせらぎの音が静かに聞こえる中、ぼんやりと夜の川を眺めていると背後から気配を感じ取るスフレ。
「お前、何やってるんだ?」
現れたのはヴェルラウドだった。スフレは少し驚くものの、何事も無いように振り返る。
「何でもないわよ。目が覚めたからちょっと夜風に当たってただけよ」
素っ気ないような態度で返答するスフレ。
「奇遇だな。俺もそんなところだ」
ヴェルラウドの一言にスフレは辺りを見回し、二人きりという状況を見て思わずドキドキしてしまう。
「ねえ、ヴェルラウド」
「何だ?」
「ちょっと……傍にいていい?」
ヴェルラウドの返答を待たず、スフレはヴェルラウドの腕にしがみつく。
「……いきなり何のつもりだ?」
何なんだと払い除けようとするヴェルラウドだが、スフレは離れようとしない。
「べ、別にいいでしょ。何ていうか……人肌が恋しくなる時だってあるんだから」
「はあ?」
何を言ってるんだとヴェルラウドはスフレから離れようとするものの、スフレは尚も離れようとしないばかりか、顔を寄せ始める。
「ヴェルラウド……あたし達、この戦いが終わったらどうなってると思う?」
スフレの問いにヴェルラウドはさあな、と返しては軽く息を吐く。
「……できればあたしと一緒に、と思ったけど……そうもいかないよね」
抱えていた想いをヴェルラウドの耳元で打ち明けるスフレ。ヴェルラウドは右頬にスフレの吐息を感じながらも、内心面倒くさそうに思いつつスフレの方に顔を向ける。
「お前は賢王様に仕える賢者だろ。賢王様の許しがない限り、叶わん事じゃないのか? それに俺は、女との深い関係は望んでいないんだ」
その場しのぎの返答をするヴェルラウド。過去に二度も騎士として守るべき姫君を目の前で失ったトラウマで異性との深い関係を望まないヴェルラウドは、恋愛感情を抱かれる事が苦痛以外の何物でもなかった。ましてや生きるか死ぬかの戦いで共にする異性の仲間とならば尚更な話である。スフレはヴェルラウドの過去の事情を知ってはいるものの、心の中では『彼の不器用な優しさに惹かれていた。彼とずっと一緒に、ずっと彼の力になりたい』気持ちと『彼はあくまで旅仲間。自分のせいで更に心の傷を増やしてはいけない』という気持ちが葛藤している状態だった。それ故にヴェルラウドの素っ気ない返答は頷けるものの、同時に何とも言えない気持ちが渦巻いていた。
「……もう俺は寝る。お前も早く寝ろよ」
ヴェルラウドが去っていく。スフレはぼんやりと去り行くヴェルラウドの後姿を見つめていた。
「……そうだよね。彼は……あたしと出会う前から辛い思いをしてきたんだから……」
スフレはヴェルラウドが抱えている辛さと悲しみを思い出しつつも、自分の感情を抑えようとする。
あなたが深い関係を望んでいないという気持ちは、あたしだってよくわかる。あんな辛い出来事を二度も経験するなんて、あたしには耐えられるものじゃないから。
でも……あなたが辛い思いをしてきたからこそ、あたしはあなたの力になりたい。
それはあなたが言う深い関係だとか、そんなんじゃない。
共に戦う仲間として、あなたの力になりたい。ただそれだけだから。
「この戦いが終わったらあたし、どうしてるかなぁ」
未来の出来事を考えると同時に、スフレは思わずヴェルラウドの事を考えてしまう。
「……できれば一緒にいれたらいいけど、ね」
ヴェルラウドへの想いを呟くスフレ。再び寝ようとするものの、そよ風が心地良く感じて川の方へ向かう。蛙の鳴く声とせせらぎの音が静かに聞こえる中、ぼんやりと夜の川を眺めていると背後から気配を感じ取るスフレ。
「お前、何やってるんだ?」
現れたのはヴェルラウドだった。スフレは少し驚くものの、何事も無いように振り返る。
「何でもないわよ。目が覚めたからちょっと夜風に当たってただけよ」
素っ気ないような態度で返答するスフレ。
「奇遇だな。俺もそんなところだ」
ヴェルラウドの一言にスフレは辺りを見回し、二人きりという状況を見て思わずドキドキしてしまう。
「ねえ、ヴェルラウド」
「何だ?」
「ちょっと……傍にいていい?」
ヴェルラウドの返答を待たず、スフレはヴェルラウドの腕にしがみつく。
「……いきなり何のつもりだ?」
何なんだと払い除けようとするヴェルラウドだが、スフレは離れようとしない。
「べ、別にいいでしょ。何ていうか……人肌が恋しくなる時だってあるんだから」
「はあ?」
何を言ってるんだとヴェルラウドはスフレから離れようとするものの、スフレは尚も離れようとしないばかりか、顔を寄せ始める。
「ヴェルラウド……あたし達、この戦いが終わったらどうなってると思う?」
スフレの問いにヴェルラウドはさあな、と返しては軽く息を吐く。
「……できればあたしと一緒に、と思ったけど……そうもいかないよね」
抱えていた想いをヴェルラウドの耳元で打ち明けるスフレ。ヴェルラウドは右頬にスフレの吐息を感じながらも、内心面倒くさそうに思いつつスフレの方に顔を向ける。
「お前は賢王様に仕える賢者だろ。賢王様の許しがない限り、叶わん事じゃないのか? それに俺は、女との深い関係は望んでいないんだ」
その場しのぎの返答をするヴェルラウド。過去に二度も騎士として守るべき姫君を目の前で失ったトラウマで異性との深い関係を望まないヴェルラウドは、恋愛感情を抱かれる事が苦痛以外の何物でもなかった。ましてや生きるか死ぬかの戦いで共にする異性の仲間とならば尚更な話である。スフレはヴェルラウドの過去の事情を知ってはいるものの、心の中では『彼の不器用な優しさに惹かれていた。彼とずっと一緒に、ずっと彼の力になりたい』気持ちと『彼はあくまで旅仲間。自分のせいで更に心の傷を増やしてはいけない』という気持ちが葛藤している状態だった。それ故にヴェルラウドの素っ気ない返答は頷けるものの、同時に何とも言えない気持ちが渦巻いていた。
「……もう俺は寝る。お前も早く寝ろよ」
ヴェルラウドが去っていく。スフレはぼんやりと去り行くヴェルラウドの後姿を見つめていた。
「……そうだよね。彼は……あたしと出会う前から辛い思いをしてきたんだから……」
スフレはヴェルラウドが抱えている辛さと悲しみを思い出しつつも、自分の感情を抑えようとする。
あなたが深い関係を望んでいないという気持ちは、あたしだってよくわかる。あんな辛い出来事を二度も経験するなんて、あたしには耐えられるものじゃないから。
でも……あなたが辛い思いをしてきたからこそ、あたしはあなたの力になりたい。
それはあなたが言う深い関係だとか、そんなんじゃない。
共に戦う仲間として、あなたの力になりたい。ただそれだけだから。
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