第十章 沈黙 黄昏にさ迷う
一
夏侯惇の耳まで、噂は飛ぶ鳥がごとく届いていた。
噂というのは決して良いものではなく、至極悪い類だった。その話題の中心は、自分のすぐそばに居る。
……………江陵で雀(シャン)によく似た男に首を掻き切られた夏侯惇だが、さいわいにも生をつなぎとめた。
気をとりもどしたときには、部下の韓浩、従兄弟の曹仁が眉間に皺を寄せ、じっとこちらを見つめていた。
時が経ちすぎていた。
腕に、理嬢を抱えた感触が生々しく残っている。理。声を出したつもりだった。喉元に一閃の痛みが走る。夏侯惇は口をはくはくとふるわせる。喉の奥が乾き、思うように動かなかった。粘りつく汗をじっとりかいている。全身を炙られているように熱がこもっていた。特に、首と右腕がじくじくと熱を押し付けられたように激しく存在を主張している。
熱、痛みの不快さから逃れようと唸りながら身を捩るも、幾分もましにはならない。
目に止めた曹仁が、言った。
「話すな」
水を数滴、唇に含まされた。
夏侯惇の舌が潤いはじめ、冷たさがじんわり染み広がっていく。喉が渇ききっていた。口のなかが澱んだ臭いがする。もっと、水が欲しい。この不快を清めたかった。
舌の付け根から苦い味がする。渇きよりもどうしても知りたいことを、唇がひとりの名をかたどった。
「り……………」
問うた。みな、動いた唇の意味を察した。
「り……………?」
だれもなにも言わなかった。ふたりのほかにも、そこにはもっと多くの人間が居たはずなのに、だれひとりとして口を開かず、目を伏せている。なにがあったのか、知った。
死んだ。
鉄の臭いが漂い、身体のなかを汚す。血が熱く煮え滾り、首の傷が燃えていく。あの蒼がちらついて、嘲笑い始めた。
理は真赤の部屋の一部に、なったのか……………?理は、赤と同化したのか……………?まさか。
「……………う……………」
うそだ。
そんなはずがない。夏侯惇は顔を背けるものどもにむかって左腕を、右腕をのばした。おかしかった。私は右腕を動かしているはずなのに、私のそれは、肘からその先が無くなっていた。夏侯惇は喉奥から血が競り上がり、口すみから泡になりながら溢れさせた。
うそだ。
ひとりの衣服を掴んだ。
ごぶり。泡の音にはばまれて、生臭い鉄の香りにさえぎられ、なにも聞こえない。周囲のものどもは、慌ただしくねずみのように走り回った。身体を起き上がらせようとすると、韓浩に両肩を掴まれて敷布に押さえつけられた。ごぶり。また血がひときわ溢れる。抗った。離せ。
理が死んだ?嘘だ。
あのとき、殺されると思った。だが、だれも「死」の場面を見ていない。だれも理嬢である「痕跡」を知らないだけであった。赤と肉の破片ばかりのなかから見つけだせなかった。居なくなった。「居なくなった」から、「死んだ」と決めるのは早計だ。
嘘だ。理は死んでなんかいない……………。そして、赤い闇に夏侯惇は一度、落ちた。
私は、理を抱いた右腕ごと喪った。腕は赤のなかにあった。それなのに、理嬢の肉片がないのはおかしいのだ。
それからのこと。夏侯惇は順調に回復し、幽閉されていた雀(シャン)に会った。雀の瞳は紅色にこうこうと煌めき、だれをも恐れさせた。
雀は変わっていた。あんなに長かった髪は首筋があらわになるまでざんばらに短くなっていたのである。そして、雀の表情から人間らしさが跡形の名残もなくなっていたのだ。
額から首筋、頬、口のまわりに固まった血がこびりついている。
雀のすがたかたちは美しかった。その美しさ包んでいたのは、すべてを刃で斬り伏せさせてしまう憎悪と、血肉をひたすらに求める衝動であった。つくりものめいたうるわしい雀は、夏侯惇が思う殺戮人形になってしまっていた。
雀は赤壁での出来事を口にしなかった。暗い水の底に沈んだ紅い色は、じっと夏侯惇を見つめていた。
「夏侯惇……………」
「雀……………」
江陵にて夏侯惇を斬り、理嬢を肉片にしたのは雀だとまことしやかに思われていた。それは、「理嬢の顔」をしただれかが、多くの人間に確認されていたからだ。
江陵の一室に居た理嬢が消えた、夏侯惇は人間だった残骸のなかで倒れていた。
曹操軍の将がだれかに、おそらく間諜によって襲われた事実は、全員に氷を浴びせ、蛇の巣穴をつついたような大事である。慌ただしいなかで留守を任されていた曹仁らは罪人を見つけんと奔走し、ひとりのだれかにたどりついた。
「理嬢の顔」をしたなにかが、理嬢の一室から出てきたのを、何人もの人間が見ていた。将たちは、雀の顔しか思いつかなかった。
張遼の手により揚子江から救い出された雀は、その異形のすがたから恐れられたはてに、夏侯惇を暗殺せんとした逆賊として地下牢にぶち込まれたのだった。
あたりまえではあるが、雀は赤壁で対峙していたのだ。有り得ないことだ。それを張遼は主張した。しかし、夏侯惇の負傷、敗北の悲報がつづき、浮き足だっていた。みな、それぞれ激しい荒波を抑えられなかった。事態の収拾には羊が必要だった。羊を掲げ、事態の収拾を試みたのだった。
なんの罪もないどころか、殺されかけていた雀は、生け贄にされた。
雀が解放されたのは、夏侯惇の意識が明瞭になった翌日で、夏侯惇の口から雀は下手人ではないと告げられてからだった。
「夏侯惇」
身体から強烈な血の臭いを漂わせ、赤黒く染まった雀は、夏侯惇に抱きついて、わんわん泣き出した。
「夏侯惇」
紅く光る瞳が大粒の涙をいくつもしたたらせ、血の塊をとかしながら激しく嘆くのを、夏侯惇は受け止めるしかできなかった。
「夏侯惇、ごめんなさい、ごめんなさい。俺のせいで、ごめんなさい」
「……………どうして、あやまる?」
やさしい言葉は、いま、雀のなぐさめにはならなかった。
頤をあげた雀の顔は、蒼い瞳のだれかと理嬢をありありとよみがえらせる。湧き起こった打ちのめしたい感情とやわらかい感情を、唾と呑みこんだ。
「俺がそばに居れば、こんなことにはならなかったのに」
瞳をとじて、じっと聴いた。いまは、見るのが、つらい。
「あいつが、あの野郎があらわれた。あいつが夏侯惇にひどいことをして、理を殺したんだ」
あの野郎。蒼い瞳をしたあいつだ。
言うな。
雀の口から、聞きたくなかった。
「理が死んじゃった」
嘘だ。
絶対に、嘘だ。
嘘だと信じる理由はなんだ。問われれば、俺が信じたくないからだと、答えるしかない。現実を凝視しろ、受け入れろ、逃げるなと言われるだろう。だが、夏侯惇は肯んずるのを拒んだ。勇気がないわけではない、もしも、一度でも、理が死んだと肯定したら、俺は自分を一生許すことができないだろう。
理嬢が死んだ。そのとき、理嬢は夏侯惇のなかから消えてしまう。
理は死んだと認めたら、俺は、もう二度と理嬢の笑顔の前に立つことができない気がする。
「理が、死んじゃった」
「雀」
だまれ。おまえは理の弟だろうが。
「みてよ、みて、夏侯惇」
一歩、身体を退かせて赤黒い装いを破る勢いで剥いだ。白い肌のいたる場所にはしる赤紅の筋、穴が、血の印になって刻まれている。悲鳴をあげてしまいそうになるほど、ぞっとした。
「あいつが、理をこんなふうにした」
異臭は、鮮烈な芳香になって天井まで立ちのぼり、むせかえりそうだった。吐き気をこらえる。
「俺と理はおんなじだから。理が傷ついたら、俺も傷ついちゃう。逆もある。これはぜんぶ、ぜんぶぜんぶ、あいつが理に」
紅い瞳が近かった。柘榴を裂いたかのように紅いそれは、蒼と対峙していたのだろう。
雀はやつが残して去った傷を視ろと、求めている。それに応えようとしたが、夏侯惇は反らした。苦しかった。ひとつひとつの刻印を確認する勇気がなかった。「嘘」が、強くなる。
蒼の瞳が向けてくる狂気が夏侯惇の首に痛みをもたらした。
眉がひそめられたのを、雀は逃さなかった。そして、夏侯惇の変化に気づき、紅の瞳で事実を認める。首に巻かれた白い包帯にわずかに滲む赤茶けた色合いに、釘付けになった。
「夏侯惇の首が……………首が……………」
「みるな」
低い咆哮は、夏侯惇の耳も心もつんざいた。
雪山から滑り落ちるように床に伏した雀のこうべを左手で撫で、上に向かせた。
凍えたままのなにもない表情の雀(シャン)は、雀ではなかった。
だめだ。夏侯惇は思った。このままでは雀は抜け殻になる。
「雀」
「……………なあに」
「休んでくれ」
紅い瞳がつらかった。なにを見つめ、なにを考え、思いつめたのか定かではない。しかし、夏侯惇が立ち入れないたぐいの感情が刃になって襲いかかり、責め苦を雀自身がもたらしている。
ひとを呼んで傷を清めてから、自分の寝台に横たわらせたが、雀はしばらく夏侯惇を見つめていた。手のひらで暗闇をもたらしてやると、雀の涙が濡らした。やがて、静かな寝息が聞こえ始めた。
泣きながら眠る雀は、おさなごだった。そのようすを、寝台に腰かけて見守る。
ひどく深い眠りから目覚めた後、雀は夏侯惇の胴体に抱きついていた。かたちのよい口からは、生臭い獣のようなにおいがしていたが、ここですこしでも離してしまうと、雀が火を押し付けられたように泣き喚きそうだったので、好きにさせていた。
扉の前で部下を二名待機させておいて、部屋にはふたりだけだった。だれかがいると、雀はがたがたと震えだす。恐怖ではなく、警戒だった。自分の子を守ろうと死に物狂いで威嚇する虎の母親に似ていた。
雀の紅い瞳が茶色に戻らないのはどうしてだろうか。理嬢とちがい、雀は自らの意思で覚醒することも、また解くこともできる。問おうと思って、踏み入れるのを止めた。きっと、ろくでもないことだ。そして、理由を知ったらわけがわからない衝動がこみあげてくる予想があった。あれこれを詮索したい。しかし、そのまえに、起こったことすべてに整理をつけたい。
いつまでそうしていただろうか。
本来わすれてはいけないことを、ふと、夏侯惇は思い出した。赤壁で敗戦した曹操が江陵へ無事帰還を果たしたが、一度も会っていない。自分の意識が飛んでしまっているあいだの出来事だった。どれほどの人員で、どれほどの軍略で、ひとつの大きな戦が終焉したのかさっぱりわからない。
曹操に、会わなければ。
「雀」
「……………はい」
胸にある短い髪に手を添え、言う。
「従兄上にお目見えしなければならない」
「どこかへ行くの」
「従兄上のところへ」
「遠くへ行くの。俺をひとりにするの。曹操は俺からきみを奪うの」
「ちがう。だれも私を奪わない。おまえは眠っていろ」
「俺も行くよ。もう寝たよ」
「まだ眠っていなさい。従兄上とはふたりで話がしたいのだ」
「……………曹操はきみをどうするの」
「どうもしない」
「俺からとるんでしょ?」
「とらない。……………雀」
「……………」
「従兄上はお疲れなのだ。いや、従兄上だけではない。戦場に赴いたもの全員が疲弊しきっている。これでも、私は将だ。戦ったものたちを労う役目がある。わかってほしい」
背中へまわされた両手がしっか衣を握って、拒絶を示してきた。身をよじり、左手で雀の額を小突く。
「大戦を指揮なされた総大将に挨拶もなしとは、とんだ非礼だろう」
憎々しげに一瞥し、鈍い動きで手を離した。雀にしては聞き分けが良かった。夏侯惇が離すのと雀が納得して引くのとでは意味が大きく異なる。私は、おまえを見棄てるわけではないのだ。
手を離したはいいものの、物惜しげに帯を指先にからめ、涙声で雀はつぶやいた。
「……………帰ってくるよね?……………戻ってくるよね?」
「おかしなことを言うな」
羽織を肩に流し、お化けを怖がるような雀に振り向いた。紅い瞳に光りはなかったが、さらにいっそう奈落が増していた。
「なにも考えずに、ただ休め」
雀は見た。太陽に照らされる外に進めながら夏侯惇は羽織に腕をすべらした。居なくなる背中の右側のすみっこが、不自然に揺れている。
陽光は、左側の影を浮かせ、右側の影無しを強調させる。布の向こう側が透いてしまうくらい映えていた。
無い。
最後に会ったときよりも、あきらかに曹操はやつれていた。頬はこけ、肉が無くなった気がする。しかし、瞳はさんさんときらめき、唇には笑みが浮かんでいた。自嘲ではない。濃い生があった。赤壁で無くなったものは多かったが、反して得たものはおおきかったのだろうか、なにかを得たのですか、とは訊かなかった。それは、曹操にしか感じとれず解せぬものであるはずだからだ。
室は薄暗く、いくつもの小さな灯火がひしめいていた。風がかすかに吹き、湯気のように揺れた。
外は群青の空と真白の雲で燦燦に照っていたが、ここは夕暮れのように暗い。足を踏み入れたとき、昼の世界から夜の世界に迷い込んでしまったのかと思った。
肘立てに重い半身を傾け、曹操は夏侯惇の来訪を静かに迎えた。
室の奥の奥に座す曹操は、乱れた髪をととのえず、炎にあぶられ泥にひたした着衣をそのままに闇にくつろいでいた。一見、みすぼらしい囚人だが、囚われているのは、闇のほうだった。抗えない気配に、夏侯惇は一瞬、息を止めた。
「従兄上」
夏侯惇は左手だけで拱手し、膝をついて礼をしめす。
「従兄上のご帰還、心より」
「大勢死んだがな」
ひどく落ち着いた冷たい声だった。
「右腕はどうした」
「……………どうしたと思います?……………ご存知でしょうが」
「我は訊ねているのだ。右腕はどうした」
夏侯惇は肘からしたにある、よれた袖を左手で握った。
「賊に持って行かれました」
「賊は?捕えたか?」
わかりきっているくせに、なぜ問うのだ。
「下女をひとり殺し、逃げました」
「理嬢は?」
「………………わかりません。居なくなってしまいました」
「そうか」
曹仁は伝えただろう。すべてを知っているうえで、曹操は夏侯惇に問うているにちがいなかった。意図はまったくわからなかった。私の口から真実を聞きたかった?そうだろう。そして、自分なりに確かめたかったのだ。
「死んだか」
息とともに、忌み言葉がつぶやかれる。夏侯惇は伏し目がちに曹操を視つめた。ちがいます。返す気にはなれなかった。理嬢の死の瞬間はだれも知らない。しかし、真赤の部屋と肉片は、死と関連付けるに容易い。ありのまま伝えられたのなら、信じるしかない。かじかむ唇を結んだ。
なぜ、落ち着いてらっしゃるのだ。いや、大戦とひとりの女を秤にかけるほど、従兄上は惰弱ではない。些事である。夏侯惇は、自分が大戦と従兄上の安否よりも女を慮っているのを恥じた。しかし、どうしても手放せないのはいたしかたないと、一抹、擁護する。
「あやつが。雀がしでかしたのではと、曹仁らが疑っておったぞ」
「まさか、信じておられるのですか」
「ふ……………。あやつの仕業だ?無理にもほどがあろうに」
こじつけを笑う曹操に、夏侯惇は安心した。ここで雀の断罪を受けたらという怯懦が一気に晴れた。雀をこれ以上、傷つけたくはない。
「なあ、理嬢の顔をした輩はいくらも居るのか?おい、おまえは、なにを秘めている?」
「なにも、なにもわかりません」
曹操の切れ長の瞳が細められた。なにも秘めてなどいない。なにを秘めればいいのだろうか。なにも、なにもわからない。
求めているものが理嬢と雀の正体をならば、夏侯惇は口にするわけにはいかなかった。
ふたりのほかの、まただれかが出てきたが、三人まとめて我々が知るべきではないだろう。すくなくとも、いまは知る必要はない。夏侯惇の頭は混乱していた。なにが秘密でそうでないかの境が非常に曖昧になってしまっていた。
「夏侯惇よ……………」
言いかけ、言葉に代わり鼻を鳴らした。
雲がしばし流れ、日射しが窓から侵入してくる。光の軌跡が部屋のなかをたちまち明るく見せた。曹操が立ちあがり、しっかりした足取りでゆっくり向かってくる。
曹操のすがた。細い肢体を纏う焦げた衣服。ところどころに泥がついている。なぜお召し変えなさらない。従兄上ともあろう方が、みっともない。しかし、眼光はたしかな威風を持っていた。見ろ。見せつけんばかりに胸を張っている。
「難儀であったな、ご苦労」
「いいえ」
「隻腕は不自由か?」
「二本もあった腕が一本だけ減っただけのことです」
「意外に、変わりないのか?」
「残ったのは利き腕ですから」
「なるほどな」
曹操は目元を擦り傷だらけの手指でほぐし、ゆっくりまたたいた。
「お休みになられていないのですか」
深い闇で銀が光った。それは夏侯惇の隻眼とまっすぐ相対する。
「眠ったよ。だが、いくら眠りに落ちようと目が冴えてしまう、昂ぶっているのだよ、ここが」
拳を胸の真ん中に押しつけ、身を乗り出しながらつづける。ここも。差されたのはこめかみだった。
河を占めるあの炎が、いまだ燃えている。身体がどうしようもなく、うずく。
解るか?俺は敗北した大将だ。しかしな、俺は負けてなどいない。良い気になっている大呆けものどもの鼻をあかしてやる。俺はいま、すこぶる機嫌がいい。
夏侯惇は曹操の背に、赤壁の業火を視た気がした。
黒い河をうめつくす炎と、空にまでせりあがる炎だ。煙はない。味方も敵も刺し、斬り、火にまかれて焦げていく。そのなかには親しい武将たちの顔もあった。ひとびとは散っていく。悶え苦しみながら、死に引きずられていく。それを、曹操は背負っていた。
死骸の道を、研ぎ澄まされた剣を手に進んでいく。口には、双肩に受けた重みを抱き込まされ、喜々と了承した余裕の笑みがある。あきらめではない。もっと貪欲に、これからも築かれるであろう屍を食ってしまうような笑みだ。
まぼろしが、目の前の曹操と一片のずれもなくかさなりあった。夏侯惇は後ずさる。
「みなに酒と肉をぞんぶんにふるまおう。そして、戦おうか」
夏侯惇の耳まで、噂は飛ぶ鳥がごとく届いていた。
噂というのは決して良いものではなく、至極悪い類だった。その話題の中心は、自分のすぐそばに居る。
……………江陵で雀(シャン)によく似た男に首を掻き切られた夏侯惇だが、さいわいにも生をつなぎとめた。
気をとりもどしたときには、部下の韓浩、従兄弟の曹仁が眉間に皺を寄せ、じっとこちらを見つめていた。
時が経ちすぎていた。
腕に、理嬢を抱えた感触が生々しく残っている。理。声を出したつもりだった。喉元に一閃の痛みが走る。夏侯惇は口をはくはくとふるわせる。喉の奥が乾き、思うように動かなかった。粘りつく汗をじっとりかいている。全身を炙られているように熱がこもっていた。特に、首と右腕がじくじくと熱を押し付けられたように激しく存在を主張している。
熱、痛みの不快さから逃れようと唸りながら身を捩るも、幾分もましにはならない。
目に止めた曹仁が、言った。
「話すな」
水を数滴、唇に含まされた。
夏侯惇の舌が潤いはじめ、冷たさがじんわり染み広がっていく。喉が渇ききっていた。口のなかが澱んだ臭いがする。もっと、水が欲しい。この不快を清めたかった。
舌の付け根から苦い味がする。渇きよりもどうしても知りたいことを、唇がひとりの名をかたどった。
「り……………」
問うた。みな、動いた唇の意味を察した。
「り……………?」
だれもなにも言わなかった。ふたりのほかにも、そこにはもっと多くの人間が居たはずなのに、だれひとりとして口を開かず、目を伏せている。なにがあったのか、知った。
死んだ。
鉄の臭いが漂い、身体のなかを汚す。血が熱く煮え滾り、首の傷が燃えていく。あの蒼がちらついて、嘲笑い始めた。
理は真赤の部屋の一部に、なったのか……………?理は、赤と同化したのか……………?まさか。
「……………う……………」
うそだ。
そんなはずがない。夏侯惇は顔を背けるものどもにむかって左腕を、右腕をのばした。おかしかった。私は右腕を動かしているはずなのに、私のそれは、肘からその先が無くなっていた。夏侯惇は喉奥から血が競り上がり、口すみから泡になりながら溢れさせた。
うそだ。
ひとりの衣服を掴んだ。
ごぶり。泡の音にはばまれて、生臭い鉄の香りにさえぎられ、なにも聞こえない。周囲のものどもは、慌ただしくねずみのように走り回った。身体を起き上がらせようとすると、韓浩に両肩を掴まれて敷布に押さえつけられた。ごぶり。また血がひときわ溢れる。抗った。離せ。
理が死んだ?嘘だ。
あのとき、殺されると思った。だが、だれも「死」の場面を見ていない。だれも理嬢である「痕跡」を知らないだけであった。赤と肉の破片ばかりのなかから見つけだせなかった。居なくなった。「居なくなった」から、「死んだ」と決めるのは早計だ。
嘘だ。理は死んでなんかいない……………。そして、赤い闇に夏侯惇は一度、落ちた。
私は、理を抱いた右腕ごと喪った。腕は赤のなかにあった。それなのに、理嬢の肉片がないのはおかしいのだ。
それからのこと。夏侯惇は順調に回復し、幽閉されていた雀(シャン)に会った。雀の瞳は紅色にこうこうと煌めき、だれをも恐れさせた。
雀は変わっていた。あんなに長かった髪は首筋があらわになるまでざんばらに短くなっていたのである。そして、雀の表情から人間らしさが跡形の名残もなくなっていたのだ。
額から首筋、頬、口のまわりに固まった血がこびりついている。
雀のすがたかたちは美しかった。その美しさ包んでいたのは、すべてを刃で斬り伏せさせてしまう憎悪と、血肉をひたすらに求める衝動であった。つくりものめいたうるわしい雀は、夏侯惇が思う殺戮人形になってしまっていた。
雀は赤壁での出来事を口にしなかった。暗い水の底に沈んだ紅い色は、じっと夏侯惇を見つめていた。
「夏侯惇……………」
「雀……………」
江陵にて夏侯惇を斬り、理嬢を肉片にしたのは雀だとまことしやかに思われていた。それは、「理嬢の顔」をしただれかが、多くの人間に確認されていたからだ。
江陵の一室に居た理嬢が消えた、夏侯惇は人間だった残骸のなかで倒れていた。
曹操軍の将がだれかに、おそらく間諜によって襲われた事実は、全員に氷を浴びせ、蛇の巣穴をつついたような大事である。慌ただしいなかで留守を任されていた曹仁らは罪人を見つけんと奔走し、ひとりのだれかにたどりついた。
「理嬢の顔」をしたなにかが、理嬢の一室から出てきたのを、何人もの人間が見ていた。将たちは、雀の顔しか思いつかなかった。
張遼の手により揚子江から救い出された雀は、その異形のすがたから恐れられたはてに、夏侯惇を暗殺せんとした逆賊として地下牢にぶち込まれたのだった。
あたりまえではあるが、雀は赤壁で対峙していたのだ。有り得ないことだ。それを張遼は主張した。しかし、夏侯惇の負傷、敗北の悲報がつづき、浮き足だっていた。みな、それぞれ激しい荒波を抑えられなかった。事態の収拾には羊が必要だった。羊を掲げ、事態の収拾を試みたのだった。
なんの罪もないどころか、殺されかけていた雀は、生け贄にされた。
雀が解放されたのは、夏侯惇の意識が明瞭になった翌日で、夏侯惇の口から雀は下手人ではないと告げられてからだった。
「夏侯惇」
身体から強烈な血の臭いを漂わせ、赤黒く染まった雀は、夏侯惇に抱きついて、わんわん泣き出した。
「夏侯惇」
紅く光る瞳が大粒の涙をいくつもしたたらせ、血の塊をとかしながら激しく嘆くのを、夏侯惇は受け止めるしかできなかった。
「夏侯惇、ごめんなさい、ごめんなさい。俺のせいで、ごめんなさい」
「……………どうして、あやまる?」
やさしい言葉は、いま、雀のなぐさめにはならなかった。
頤をあげた雀の顔は、蒼い瞳のだれかと理嬢をありありとよみがえらせる。湧き起こった打ちのめしたい感情とやわらかい感情を、唾と呑みこんだ。
「俺がそばに居れば、こんなことにはならなかったのに」
瞳をとじて、じっと聴いた。いまは、見るのが、つらい。
「あいつが、あの野郎があらわれた。あいつが夏侯惇にひどいことをして、理を殺したんだ」
あの野郎。蒼い瞳をしたあいつだ。
言うな。
雀の口から、聞きたくなかった。
「理が死んじゃった」
嘘だ。
絶対に、嘘だ。
嘘だと信じる理由はなんだ。問われれば、俺が信じたくないからだと、答えるしかない。現実を凝視しろ、受け入れろ、逃げるなと言われるだろう。だが、夏侯惇は肯んずるのを拒んだ。勇気がないわけではない、もしも、一度でも、理が死んだと肯定したら、俺は自分を一生許すことができないだろう。
理嬢が死んだ。そのとき、理嬢は夏侯惇のなかから消えてしまう。
理は死んだと認めたら、俺は、もう二度と理嬢の笑顔の前に立つことができない気がする。
「理が、死んじゃった」
「雀」
だまれ。おまえは理の弟だろうが。
「みてよ、みて、夏侯惇」
一歩、身体を退かせて赤黒い装いを破る勢いで剥いだ。白い肌のいたる場所にはしる赤紅の筋、穴が、血の印になって刻まれている。悲鳴をあげてしまいそうになるほど、ぞっとした。
「あいつが、理をこんなふうにした」
異臭は、鮮烈な芳香になって天井まで立ちのぼり、むせかえりそうだった。吐き気をこらえる。
「俺と理はおんなじだから。理が傷ついたら、俺も傷ついちゃう。逆もある。これはぜんぶ、ぜんぶぜんぶ、あいつが理に」
紅い瞳が近かった。柘榴を裂いたかのように紅いそれは、蒼と対峙していたのだろう。
雀はやつが残して去った傷を視ろと、求めている。それに応えようとしたが、夏侯惇は反らした。苦しかった。ひとつひとつの刻印を確認する勇気がなかった。「嘘」が、強くなる。
蒼の瞳が向けてくる狂気が夏侯惇の首に痛みをもたらした。
眉がひそめられたのを、雀は逃さなかった。そして、夏侯惇の変化に気づき、紅の瞳で事実を認める。首に巻かれた白い包帯にわずかに滲む赤茶けた色合いに、釘付けになった。
「夏侯惇の首が……………首が……………」
「みるな」
低い咆哮は、夏侯惇の耳も心もつんざいた。
雪山から滑り落ちるように床に伏した雀のこうべを左手で撫で、上に向かせた。
凍えたままのなにもない表情の雀(シャン)は、雀ではなかった。
だめだ。夏侯惇は思った。このままでは雀は抜け殻になる。
「雀」
「……………なあに」
「休んでくれ」
紅い瞳がつらかった。なにを見つめ、なにを考え、思いつめたのか定かではない。しかし、夏侯惇が立ち入れないたぐいの感情が刃になって襲いかかり、責め苦を雀自身がもたらしている。
ひとを呼んで傷を清めてから、自分の寝台に横たわらせたが、雀はしばらく夏侯惇を見つめていた。手のひらで暗闇をもたらしてやると、雀の涙が濡らした。やがて、静かな寝息が聞こえ始めた。
泣きながら眠る雀は、おさなごだった。そのようすを、寝台に腰かけて見守る。
ひどく深い眠りから目覚めた後、雀は夏侯惇の胴体に抱きついていた。かたちのよい口からは、生臭い獣のようなにおいがしていたが、ここですこしでも離してしまうと、雀が火を押し付けられたように泣き喚きそうだったので、好きにさせていた。
扉の前で部下を二名待機させておいて、部屋にはふたりだけだった。だれかがいると、雀はがたがたと震えだす。恐怖ではなく、警戒だった。自分の子を守ろうと死に物狂いで威嚇する虎の母親に似ていた。
雀の紅い瞳が茶色に戻らないのはどうしてだろうか。理嬢とちがい、雀は自らの意思で覚醒することも、また解くこともできる。問おうと思って、踏み入れるのを止めた。きっと、ろくでもないことだ。そして、理由を知ったらわけがわからない衝動がこみあげてくる予想があった。あれこれを詮索したい。しかし、そのまえに、起こったことすべてに整理をつけたい。
いつまでそうしていただろうか。
本来わすれてはいけないことを、ふと、夏侯惇は思い出した。赤壁で敗戦した曹操が江陵へ無事帰還を果たしたが、一度も会っていない。自分の意識が飛んでしまっているあいだの出来事だった。どれほどの人員で、どれほどの軍略で、ひとつの大きな戦が終焉したのかさっぱりわからない。
曹操に、会わなければ。
「雀」
「……………はい」
胸にある短い髪に手を添え、言う。
「従兄上にお目見えしなければならない」
「どこかへ行くの」
「従兄上のところへ」
「遠くへ行くの。俺をひとりにするの。曹操は俺からきみを奪うの」
「ちがう。だれも私を奪わない。おまえは眠っていろ」
「俺も行くよ。もう寝たよ」
「まだ眠っていなさい。従兄上とはふたりで話がしたいのだ」
「……………曹操はきみをどうするの」
「どうもしない」
「俺からとるんでしょ?」
「とらない。……………雀」
「……………」
「従兄上はお疲れなのだ。いや、従兄上だけではない。戦場に赴いたもの全員が疲弊しきっている。これでも、私は将だ。戦ったものたちを労う役目がある。わかってほしい」
背中へまわされた両手がしっか衣を握って、拒絶を示してきた。身をよじり、左手で雀の額を小突く。
「大戦を指揮なされた総大将に挨拶もなしとは、とんだ非礼だろう」
憎々しげに一瞥し、鈍い動きで手を離した。雀にしては聞き分けが良かった。夏侯惇が離すのと雀が納得して引くのとでは意味が大きく異なる。私は、おまえを見棄てるわけではないのだ。
手を離したはいいものの、物惜しげに帯を指先にからめ、涙声で雀はつぶやいた。
「……………帰ってくるよね?……………戻ってくるよね?」
「おかしなことを言うな」
羽織を肩に流し、お化けを怖がるような雀に振り向いた。紅い瞳に光りはなかったが、さらにいっそう奈落が増していた。
「なにも考えずに、ただ休め」
雀は見た。太陽に照らされる外に進めながら夏侯惇は羽織に腕をすべらした。居なくなる背中の右側のすみっこが、不自然に揺れている。
陽光は、左側の影を浮かせ、右側の影無しを強調させる。布の向こう側が透いてしまうくらい映えていた。
無い。
最後に会ったときよりも、あきらかに曹操はやつれていた。頬はこけ、肉が無くなった気がする。しかし、瞳はさんさんときらめき、唇には笑みが浮かんでいた。自嘲ではない。濃い生があった。赤壁で無くなったものは多かったが、反して得たものはおおきかったのだろうか、なにかを得たのですか、とは訊かなかった。それは、曹操にしか感じとれず解せぬものであるはずだからだ。
室は薄暗く、いくつもの小さな灯火がひしめいていた。風がかすかに吹き、湯気のように揺れた。
外は群青の空と真白の雲で燦燦に照っていたが、ここは夕暮れのように暗い。足を踏み入れたとき、昼の世界から夜の世界に迷い込んでしまったのかと思った。
肘立てに重い半身を傾け、曹操は夏侯惇の来訪を静かに迎えた。
室の奥の奥に座す曹操は、乱れた髪をととのえず、炎にあぶられ泥にひたした着衣をそのままに闇にくつろいでいた。一見、みすぼらしい囚人だが、囚われているのは、闇のほうだった。抗えない気配に、夏侯惇は一瞬、息を止めた。
「従兄上」
夏侯惇は左手だけで拱手し、膝をついて礼をしめす。
「従兄上のご帰還、心より」
「大勢死んだがな」
ひどく落ち着いた冷たい声だった。
「右腕はどうした」
「……………どうしたと思います?……………ご存知でしょうが」
「我は訊ねているのだ。右腕はどうした」
夏侯惇は肘からしたにある、よれた袖を左手で握った。
「賊に持って行かれました」
「賊は?捕えたか?」
わかりきっているくせに、なぜ問うのだ。
「下女をひとり殺し、逃げました」
「理嬢は?」
「………………わかりません。居なくなってしまいました」
「そうか」
曹仁は伝えただろう。すべてを知っているうえで、曹操は夏侯惇に問うているにちがいなかった。意図はまったくわからなかった。私の口から真実を聞きたかった?そうだろう。そして、自分なりに確かめたかったのだ。
「死んだか」
息とともに、忌み言葉がつぶやかれる。夏侯惇は伏し目がちに曹操を視つめた。ちがいます。返す気にはなれなかった。理嬢の死の瞬間はだれも知らない。しかし、真赤の部屋と肉片は、死と関連付けるに容易い。ありのまま伝えられたのなら、信じるしかない。かじかむ唇を結んだ。
なぜ、落ち着いてらっしゃるのだ。いや、大戦とひとりの女を秤にかけるほど、従兄上は惰弱ではない。些事である。夏侯惇は、自分が大戦と従兄上の安否よりも女を慮っているのを恥じた。しかし、どうしても手放せないのはいたしかたないと、一抹、擁護する。
「あやつが。雀がしでかしたのではと、曹仁らが疑っておったぞ」
「まさか、信じておられるのですか」
「ふ……………。あやつの仕業だ?無理にもほどがあろうに」
こじつけを笑う曹操に、夏侯惇は安心した。ここで雀の断罪を受けたらという怯懦が一気に晴れた。雀をこれ以上、傷つけたくはない。
「なあ、理嬢の顔をした輩はいくらも居るのか?おい、おまえは、なにを秘めている?」
「なにも、なにもわかりません」
曹操の切れ長の瞳が細められた。なにも秘めてなどいない。なにを秘めればいいのだろうか。なにも、なにもわからない。
求めているものが理嬢と雀の正体をならば、夏侯惇は口にするわけにはいかなかった。
ふたりのほかの、まただれかが出てきたが、三人まとめて我々が知るべきではないだろう。すくなくとも、いまは知る必要はない。夏侯惇の頭は混乱していた。なにが秘密でそうでないかの境が非常に曖昧になってしまっていた。
「夏侯惇よ……………」
言いかけ、言葉に代わり鼻を鳴らした。
雲がしばし流れ、日射しが窓から侵入してくる。光の軌跡が部屋のなかをたちまち明るく見せた。曹操が立ちあがり、しっかりした足取りでゆっくり向かってくる。
曹操のすがた。細い肢体を纏う焦げた衣服。ところどころに泥がついている。なぜお召し変えなさらない。従兄上ともあろう方が、みっともない。しかし、眼光はたしかな威風を持っていた。見ろ。見せつけんばかりに胸を張っている。
「難儀であったな、ご苦労」
「いいえ」
「隻腕は不自由か?」
「二本もあった腕が一本だけ減っただけのことです」
「意外に、変わりないのか?」
「残ったのは利き腕ですから」
「なるほどな」
曹操は目元を擦り傷だらけの手指でほぐし、ゆっくりまたたいた。
「お休みになられていないのですか」
深い闇で銀が光った。それは夏侯惇の隻眼とまっすぐ相対する。
「眠ったよ。だが、いくら眠りに落ちようと目が冴えてしまう、昂ぶっているのだよ、ここが」
拳を胸の真ん中に押しつけ、身を乗り出しながらつづける。ここも。差されたのはこめかみだった。
河を占めるあの炎が、いまだ燃えている。身体がどうしようもなく、うずく。
解るか?俺は敗北した大将だ。しかしな、俺は負けてなどいない。良い気になっている大呆けものどもの鼻をあかしてやる。俺はいま、すこぶる機嫌がいい。
夏侯惇は曹操の背に、赤壁の業火を視た気がした。
黒い河をうめつくす炎と、空にまでせりあがる炎だ。煙はない。味方も敵も刺し、斬り、火にまかれて焦げていく。そのなかには親しい武将たちの顔もあった。ひとびとは散っていく。悶え苦しみながら、死に引きずられていく。それを、曹操は背負っていた。
死骸の道を、研ぎ澄まされた剣を手に進んでいく。口には、双肩に受けた重みを抱き込まされ、喜々と了承した余裕の笑みがある。あきらめではない。もっと貪欲に、これからも築かれるであろう屍を食ってしまうような笑みだ。
まぼろしが、目の前の曹操と一片のずれもなくかさなりあった。夏侯惇は後ずさる。
「みなに酒と肉をぞんぶんにふるまおう。そして、戦おうか」