ロイドとヨルの悪いこと【ロイドとヨル】
「ヨルさん、まだ起きてますか?」
何故か眠れぬ夜、ロイドはヨルの部屋の扉をノックした。声をかけるだなんて自分でもどうかしているとは思うのだが、ただ無性に声をかけたくなったのだ。
ヨルが起きているのは鍵穴から微かに漏れる灯で分かるが、ヨル自身の部屋なのだから勝手に扉を開ける訳にはいかない。もうすぐ二十三時を回る遅い時間だ。いくら明日が休みとはいえ、寝るつもりであれば出てこないで無視すればいいだけ。そんな時間だから、ロイドはヨルが出てくることは期待せず声をかけたのだ。
だが室内からは、ベッドが軋んだ音とスリッパのパタパタという音、そして……。
「……起きてました」
ドアの隙間からヨルが顔を出した。
ドアで体を隠しているため、首をかしげるように出ている顔を流れるように降ろしている髪サラサラと落ちてくる。その髪を耳にかけえへへと笑うヨルに、ロイドはほっとしつつイタズラを思いついた子供のような笑みを浮かべ、ヨルの方へ体を傾け囁いた。
「これからボクと悪いことしましょう」
悪いことしませんか?と問われたのではなく、悪いことをしようと誘われたヨルはびっくりするものの、ロイドの子供っぽい笑みに思わず頷いていた。
「決まりですね。じゃあ上着を羽織ってリビングで待っていてください」
嬉しそうな顔をしながらロイドはキッチンへと消えていく。ということは、何か料理が出てくるということだが、それのどこが悪いことなのか。それでもロイドのあの笑みが気になって、ガウンを羽織るとキッチンへ顔を出す。
「ロイドさん、私もお手伝いします」
「簡単なものですからリビングで待っててください。出来てからのお楽しみで」
またもや何故か嬉しそうなロイドに、ユーリが小さかった時のことを思い出す。こういう表情をしている時は邪魔をせずに飽きるまで好きにさせておく方がよい。きっとロイドもあの頃のユーリのように自分がしていることが楽しくて仕方がないのだろう。分かりましたと大人しく引きさがり、部屋の前で言われた通りダイニングではなくリビングへ行ってソファーに腰を下ろした。
「でも、悪いことってなんでしょう?」
ロイドが悪ふざけをするような人ではないのは一緒に暮らしてきて分かっているのだが、そんな真面目なロイドがイタズラを思いついた子供のような笑みを浮かべて悪いことというのも驚きだし、嬉しそうな顔をしながら材料を切っていたのも、普段とのギャップに戸惑いながらも可愛らしいと思ってしまい、首をブンブン振った。
——殿方に可愛らしいだなんて、失礼ですよ!でも、ロイドさんの笑顔、子供みたいで可愛らしかったですもん、きっと小さい時はとっても可愛らしい男の子だったのでしょう……はうう……
勝手に子供の頃のロイドを想像し駄目だと真っ赤になりながら自分の妄想を追い払う。
気づけばキッチンからいい香りが漂ってきていた。オリーブオイルの香りに野菜が焼ける香り。少し後からベーコンが焼ける香りと油が爆ぜる音がして、夜中だというのにお腹が鳴ってしまった。あまりにも美味しそうな香りにロイドが何を作っているのか気になりそわそわしするのだが、ロイドはここで待っていてくれと言ったので覗きに行くわけにもいかず、こういう時に覗いてしまうと拗ねてしまったりガッカリした顔になるのはユーリで経験済みなので我慢をしているものの、やはりお尻が落ち着かない。
そうこうしていると、カタカタという音と共にロイドのスリッパの立てる音が近づいてきたのでそちらに顔を向けると、ロイドがトレーと酒瓶を持って入ってきた。
この時間にお酒を飲むのはたまにあるので、それがロイドの言う悪いこととは思えない。
ただロイドの手にあるのはワインではなくウィスキーで、ロイドがウィスキーを家で飲むところを見た事がないのでこれが悪いことなのかもしれない。そんなことをぐるぐると考えていたものの、トレーから流れてくる香りに視線が釘付けになる。それに気づいたロイドは手に持つウィスキーの瓶をテーブルに置くと、トレーをヨルの目の前に差し出した。
「オニオンステーキ・ベーコンチーズサンドでございます」
給仕のように料理を紹介し、ヨルの前に置く。
厚めにスライスされた玉ねぎはソテーされ、カリカリに焼いたベーコンとチーズ、そしてまた玉ねぎのスライスという美味しいしかない食べ物が目の前に鎮座している。
立ち上る香りは、最近ロイドが買ってきた極東の調味料・ソイソースというもので、食欲をそそる香りに喉が鳴る。
「ね、悪い事でしょう?」
ヨルの反応に快くしたロイドは、またイタズラを思いついた子供のような笑顔を浮かべウィンクする。真夜中にこんなカロリーの爆弾を食べるのは、確かに「悪いこと」だ。
——はわわ、これはとっても悪いことです。
ヨルが両手で頬を包みながらドキンコドキンコしている隣で、ロイドはハイボールを作り、押しやった。
「一緒に悪いことをして、共犯になってください」
「‼︎ はい!喜んで」
置かれたグラスを取り、差し出されたロイドのグラスを軽く合わせ一口喉を潤すと、二人は早速悪いことのためにフォークを手に取った。
完
何故か眠れぬ夜、ロイドはヨルの部屋の扉をノックした。声をかけるだなんて自分でもどうかしているとは思うのだが、ただ無性に声をかけたくなったのだ。
ヨルが起きているのは鍵穴から微かに漏れる灯で分かるが、ヨル自身の部屋なのだから勝手に扉を開ける訳にはいかない。もうすぐ二十三時を回る遅い時間だ。いくら明日が休みとはいえ、寝るつもりであれば出てこないで無視すればいいだけ。そんな時間だから、ロイドはヨルが出てくることは期待せず声をかけたのだ。
だが室内からは、ベッドが軋んだ音とスリッパのパタパタという音、そして……。
「……起きてました」
ドアの隙間からヨルが顔を出した。
ドアで体を隠しているため、首をかしげるように出ている顔を流れるように降ろしている髪サラサラと落ちてくる。その髪を耳にかけえへへと笑うヨルに、ロイドはほっとしつつイタズラを思いついた子供のような笑みを浮かべ、ヨルの方へ体を傾け囁いた。
「これからボクと悪いことしましょう」
悪いことしませんか?と問われたのではなく、悪いことをしようと誘われたヨルはびっくりするものの、ロイドの子供っぽい笑みに思わず頷いていた。
「決まりですね。じゃあ上着を羽織ってリビングで待っていてください」
嬉しそうな顔をしながらロイドはキッチンへと消えていく。ということは、何か料理が出てくるということだが、それのどこが悪いことなのか。それでもロイドのあの笑みが気になって、ガウンを羽織るとキッチンへ顔を出す。
「ロイドさん、私もお手伝いします」
「簡単なものですからリビングで待っててください。出来てからのお楽しみで」
またもや何故か嬉しそうなロイドに、ユーリが小さかった時のことを思い出す。こういう表情をしている時は邪魔をせずに飽きるまで好きにさせておく方がよい。きっとロイドもあの頃のユーリのように自分がしていることが楽しくて仕方がないのだろう。分かりましたと大人しく引きさがり、部屋の前で言われた通りダイニングではなくリビングへ行ってソファーに腰を下ろした。
「でも、悪いことってなんでしょう?」
ロイドが悪ふざけをするような人ではないのは一緒に暮らしてきて分かっているのだが、そんな真面目なロイドがイタズラを思いついた子供のような笑みを浮かべて悪いことというのも驚きだし、嬉しそうな顔をしながら材料を切っていたのも、普段とのギャップに戸惑いながらも可愛らしいと思ってしまい、首をブンブン振った。
——殿方に可愛らしいだなんて、失礼ですよ!でも、ロイドさんの笑顔、子供みたいで可愛らしかったですもん、きっと小さい時はとっても可愛らしい男の子だったのでしょう……はうう……
勝手に子供の頃のロイドを想像し駄目だと真っ赤になりながら自分の妄想を追い払う。
気づけばキッチンからいい香りが漂ってきていた。オリーブオイルの香りに野菜が焼ける香り。少し後からベーコンが焼ける香りと油が爆ぜる音がして、夜中だというのにお腹が鳴ってしまった。あまりにも美味しそうな香りにロイドが何を作っているのか気になりそわそわしするのだが、ロイドはここで待っていてくれと言ったので覗きに行くわけにもいかず、こういう時に覗いてしまうと拗ねてしまったりガッカリした顔になるのはユーリで経験済みなので我慢をしているものの、やはりお尻が落ち着かない。
そうこうしていると、カタカタという音と共にロイドのスリッパの立てる音が近づいてきたのでそちらに顔を向けると、ロイドがトレーと酒瓶を持って入ってきた。
この時間にお酒を飲むのはたまにあるので、それがロイドの言う悪いこととは思えない。
ただロイドの手にあるのはワインではなくウィスキーで、ロイドがウィスキーを家で飲むところを見た事がないのでこれが悪いことなのかもしれない。そんなことをぐるぐると考えていたものの、トレーから流れてくる香りに視線が釘付けになる。それに気づいたロイドは手に持つウィスキーの瓶をテーブルに置くと、トレーをヨルの目の前に差し出した。
「オニオンステーキ・ベーコンチーズサンドでございます」
給仕のように料理を紹介し、ヨルの前に置く。
厚めにスライスされた玉ねぎはソテーされ、カリカリに焼いたベーコンとチーズ、そしてまた玉ねぎのスライスという美味しいしかない食べ物が目の前に鎮座している。
立ち上る香りは、最近ロイドが買ってきた極東の調味料・ソイソースというもので、食欲をそそる香りに喉が鳴る。
「ね、悪い事でしょう?」
ヨルの反応に快くしたロイドは、またイタズラを思いついた子供のような笑顔を浮かべウィンクする。真夜中にこんなカロリーの爆弾を食べるのは、確かに「悪いこと」だ。
——はわわ、これはとっても悪いことです。
ヨルが両手で頬を包みながらドキンコドキンコしている隣で、ロイドはハイボールを作り、押しやった。
「一緒に悪いことをして、共犯になってください」
「‼︎ はい!喜んで」
置かれたグラスを取り、差し出されたロイドのグラスを軽く合わせ一口喉を潤すと、二人は早速悪いことのためにフォークを手に取った。
完
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