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brmyプラス

二人で静かに煙草を吸う時間が好きだった。
今はもう、一人でその時間を楽しむことしか出来ない。由鶴の服にあれだけ染み付いてた煙草の匂いが消えて香水の香りへと変化したことにちょっとだけ寂しくなった。
どうせ、出来やしないと思ってた禁煙を由鶴は成功させてしまった。それも一人で。
そして、彼は忙しくなった。aporiaという場所に務めるようになってからは余計に。
寂しいと素直に口に出せれば良かったのに。
それでも繋がれた温もりを手放すことは絶対にしたくなかったし、出来なかった。
だから、待った。
彼の繁忙期が終わって落ち着くまでひたすらに。

ある日、珍しく由鶴が家に来た。

由鶴がお風呂に入ってる間にベランダで煙草を吸う。染み付いた動作で火をつけては、深く吸って、吐く。
「禁煙しないの?」
ふいにかけられた声に振り返るとお風呂から上がった由鶴が後ろに立っていた。
「それ、俺が吸ってた銘柄だよね、変えたんだ?」
そう言って、私を後ろから抱きしめながら、するりと煙草を奪い取り、手馴れたように吸い始める。
「禁煙……したんじゃないの」
「うん、これで、最後だから」
そう言ってゆっくりと吐き出される煙。
後ろからの体温と鼓動を感じながら、私ももう一本取り出して吸い始める。
やっぱりこの時間が好きだ。二人で静かな街の明かりを眺めながら煙を吐く、そんな日常が。
しばらく二人でゆっくりと煙草を吸った。
「俺は、さ」
やや間を置いてから由鶴が話し出す。
「大きなことを出来る人間じゃないんだ、だから誰かを支えられる仕事が出来てる今の環境が好きで」
「うん、知ってる」
「……そのせいで君を蔑ろにしてしまう部分が出来てることもほんとは気づいてる」
首元に由鶴が顔を埋める。耳に彼の髪が当たって擽ったいけれど、それを辞めさせずに彼の言葉に耳を傾ける。
「このままじゃいけないって、わかってるのに君は待っててくれて、けれど何も言わないことが少しもどかしかった」
「うん」
「でも、君が誰かと幸せになってるとこは見たくないし、手放すことも出来ない。だから、さ」
躊躇うような間が続いた後、由鶴は口を開いた。
「俺と、不幸になってよ」
まるで母親に縋る幼子のような声で。
「いいよ」
答えはすぐに口から出た。
由鶴の顔を覗き込めば、驚いた表情をして、こちらを見ている。
「私、好きな人のためならいくらでもお行儀よく待てが出来るの」
そう言えば、彼は少し安堵したような表情をして笑った。
それから、彼の顔がゆっくりと近づいて、キスをする。
苦く、染み付いた慣れた味。そういえば、私も彼もキスを強請るのは決まって煙草を吸っているときだったことを思い出す。
ゆらゆらと揺れる煙のように私たちはいつも何処か不安定だけど、お互いを好きでいる限りは大丈夫だ、なんて確信もないことを信じてる。
それが歪んだ愛情だとしても。
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