じゅじゅプラス
生理が来なくなった。
それに気づいたのはスケジュール帳を見返して、赤い丸が日付の上に書かれたのが2ヶ月前だったから。
友人の勧めで産婦人科に行けば妊娠が発覚した。
「やったじゃん、あの人超優良株だし。将来安泰だね」
なんて言われたけど、私の心の中はちっとも良くなんかなかった。
だって母親になんかなりたくない。
別に親が毒親だったから、とかではない。むしろ、普通の家庭の普通の親だった、と思う。
ただ、子供という生き物が恐ろしいだけである。
自分の腹から生まれる他人をどう扱えばいいのかわからないし、育てるってなんだろうとも思う。
その自分の考えを改めて自認したとき、急に腹に抱えるものが得体の知れない恐怖となって体にまとわりついたかのようだった。
悟には黙っていよう。そう決めた、はずだった。
「何これ」
隠し持っていた母子手帳が見つかった。
「最近コソコソしてるなぁって思ったら、何これ、浮気でもして妊娠したわけ?」
「そんなはずないことは悟が一番わかってるじゃん」
「じゃあ、なんで隠してた?」
「……子供なんか、産みたくないから」
「は?」
ここで泣くまいと決めていても、責められるような口調で言われて勝手に涙が出てくる。
「悟がなんて言うかも、わかんなかった。何より"悟との子供"であっても産みたくないから」
「……僕のこと、そんなに信用ないの?」
「違う、信用とかそういうのじゃない」
友人にも言われた、親にも言われた普通の幸せ。子供を産んで家庭を築く。そんなものが自分に出来るわけないとかそういう問題ではなかった。
私の子供嫌いは度を越している自覚がある。
何より、自分の子供に何をするのか自分でもわからない。そんなとこが怖かった。
「……違う、嫌だ、産みたくない」
「僕との子供そんな嫌?」
「違うって言ってるでしょ!」
「じゃあ、なんで嫌かハッキリ言えよ」
感情に流されている自分とは違って悟はやけに冷静だった。
「子供を産みたくないのはわかったけど、理由言われなきゃこっちだって納得できねぇんだよ」
「……悟、子供欲しいの?」
「僕は欲しいと思ってるよ。お前との子なら尚更ね」
そう言われて、そうか、そもそも根本から話が合わないのか、と理解してしまった。
誤算だ。彼が子供を望んでるとは。
付き合ってはいたけど、先の話を驚く程二人でしなかったから、彼との関係はそこで立ち止まったまま、いつか終わりを迎えると思っていた。それに気づいたから、隠し通していたというのに。
「丁度いいや。これ、受け取ってよ」
悟が傍にあった鞄から取り出したのは、紺色の小箱。
「結婚しよう」
その言葉は、私にとって重く伸し掛るように響いた。
その晩、悟は私をベッドに引きずり込んでただひたすら体温を感じさせるように裸で抱き合い、耳元で愛を囁いた。
私がどれだけ彼に愛されてるかの自覚が足りないから、らしい。
そんなことをされても、私の心は変わらない、というのに。
ざぁざぁと、外は雨が降り注ぐ。雨の音と、吐息の混じった愛の囁きが自分の身を犯していく。
今は、花腐しの雨が降る六月だった。
それに気づいたのはスケジュール帳を見返して、赤い丸が日付の上に書かれたのが2ヶ月前だったから。
友人の勧めで産婦人科に行けば妊娠が発覚した。
「やったじゃん、あの人超優良株だし。将来安泰だね」
なんて言われたけど、私の心の中はちっとも良くなんかなかった。
だって母親になんかなりたくない。
別に親が毒親だったから、とかではない。むしろ、普通の家庭の普通の親だった、と思う。
ただ、子供という生き物が恐ろしいだけである。
自分の腹から生まれる他人をどう扱えばいいのかわからないし、育てるってなんだろうとも思う。
その自分の考えを改めて自認したとき、急に腹に抱えるものが得体の知れない恐怖となって体にまとわりついたかのようだった。
悟には黙っていよう。そう決めた、はずだった。
「何これ」
隠し持っていた母子手帳が見つかった。
「最近コソコソしてるなぁって思ったら、何これ、浮気でもして妊娠したわけ?」
「そんなはずないことは悟が一番わかってるじゃん」
「じゃあ、なんで隠してた?」
「……子供なんか、産みたくないから」
「は?」
ここで泣くまいと決めていても、責められるような口調で言われて勝手に涙が出てくる。
「悟がなんて言うかも、わかんなかった。何より"悟との子供"であっても産みたくないから」
「……僕のこと、そんなに信用ないの?」
「違う、信用とかそういうのじゃない」
友人にも言われた、親にも言われた普通の幸せ。子供を産んで家庭を築く。そんなものが自分に出来るわけないとかそういう問題ではなかった。
私の子供嫌いは度を越している自覚がある。
何より、自分の子供に何をするのか自分でもわからない。そんなとこが怖かった。
「……違う、嫌だ、産みたくない」
「僕との子供そんな嫌?」
「違うって言ってるでしょ!」
「じゃあ、なんで嫌かハッキリ言えよ」
感情に流されている自分とは違って悟はやけに冷静だった。
「子供を産みたくないのはわかったけど、理由言われなきゃこっちだって納得できねぇんだよ」
「……悟、子供欲しいの?」
「僕は欲しいと思ってるよ。お前との子なら尚更ね」
そう言われて、そうか、そもそも根本から話が合わないのか、と理解してしまった。
誤算だ。彼が子供を望んでるとは。
付き合ってはいたけど、先の話を驚く程二人でしなかったから、彼との関係はそこで立ち止まったまま、いつか終わりを迎えると思っていた。それに気づいたから、隠し通していたというのに。
「丁度いいや。これ、受け取ってよ」
悟が傍にあった鞄から取り出したのは、紺色の小箱。
「結婚しよう」
その言葉は、私にとって重く伸し掛るように響いた。
その晩、悟は私をベッドに引きずり込んでただひたすら体温を感じさせるように裸で抱き合い、耳元で愛を囁いた。
私がどれだけ彼に愛されてるかの自覚が足りないから、らしい。
そんなことをされても、私の心は変わらない、というのに。
ざぁざぁと、外は雨が降り注ぐ。雨の音と、吐息の混じった愛の囁きが自分の身を犯していく。
今は、花腐しの雨が降る六月だった。
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