星夜ノ楔
飛行都市マギニア。絶海の孤島「レムリア」に眠っているという秘宝を求め、世界中から冒険者が集結していた。紫がかった黒い長髪と薔薇色の瞳を持つ夜賊の青年、ヨウシア・リトニウスと淡い桃色のミディアムと琥珀と翡翠の異なる色の瞳(め)を持つ占星術師の青年、タピオ・エルヴァスティの二人組もその中の一部である。以前の彼らは北国の森奥の古びた空き家で隠れるように暮らしていたが、危険な仕事を続けていたヨウシアが一度死にかけて悲憤したタピオが旅に出ることを提案し、冒険者になった。そしてマギニアに辿り着いた二人はギルド『トゥオネラ』を結成した。
「まずはメンバーを募集しないとね。バランスを考えると前衛で戦える人と回復が得意な人がほしいなぁ。ヨウちゃんはどう思う?」
「…他の奴なんかいらないだろ。俺達だけで十分だ」
「他人が信用できないのかい?でも五人パーティを推薦するって言われたよね?ここは我慢した方がいいよ」
ヨウシアは折れたのか渋々承諾した。タピオはメンバー募集のチラシを作成し、掲示板に貼った。直接話しかけた方が早いような気もするが、自分達のことを知る方法は多い方がいいと思ったのだ。
一時間近く経過しただろうか。タピオが積極的に声をかけたものの全て断られていた。その理由のほとんどが「夜賊の方はともかく占星術師の方は本当に占星術師なのかよく分からない」であった。ヨウシアは苛立っていた。
「だから二人だけで十分だと言ったんだ…それにどいつもこいつも信頼できそうにない奴らばかりだ…何せあいつらはタピオを否定しやがったからな…!」
「はいはい、ここまで。ヨウちゃんは心配性だなぁ。きっと見つかるよ」
と言いつつ半ば諦めていた。その時近くのカウンター席でお茶を飲んでいた男がこちらの存在に気が付いたのか近づいてくる。和風な装備に勿忘草のような青紫色の瞳と茶色が混じった黒髪のポニーテールが印象的な美男子だ。
「あらぁ…長髪のイケメン君、いい男ねぇ。隣のヘテロクロミア君は可愛らしい顔してるわ。おっと失礼、私はカブラギ・ナオハル、東方の島国から来た将軍よ。私で良ければギルドに入れてもらえないかしら?いいわね?」
想像していたキャラと全然違う。しかもかなり一方的だ。だが初めて仲間になってくれそうな人ができたのだ。断るわけにはいかない。しかしショーグンという職業は二人ともあまり詳しくなく、いまいちよく分からなかった。
「入ってもいいけど、ショーグンは敵味方関係なく首を切りまくる職業って聞いたことがあるけど本当かい?」
「もう!滅茶苦茶ね。間違ってはいないけど私はそんな事はしないから安心してちょうだい!」
「そうなんだ!頼れそうだし入っていいよ」
こうして新たにカブラギがギルドに加わった。
二人は軽く自己紹介を済ませ、次に仲間にしたい人を考えていた。
「ナイトシーカーにゾディアックねぇ…この面子だと盾役を入れるといいわね。声をかけてくるわ」
カブラギは防御特攻の新たな冒険者を探しに行った。束の間の静けさが戻ってきたかのようだった。
タピオはカブラギに対して好印象である反面、ヨウシアは気に入らない様子。
「なぁタピオ。あの変なオカマ野郎を仲間にするとか…正気か?」
ヨウシアが心配するもタピオはまぁ大丈夫だって、彼…女?はいい人そうだよ、と言い聞かせるのであった。
「お二人さぁ~ん!お待たせ♡パラディンの子を連れてきたわよ」
カブラギの声が聞こえてきた。人を連れて戻ってきたようだ。薄黄蘗の色をしたボブカットに碧色の上着を羽織った少女のようだ。怯えている様子であったがカブラギの声援に励まされ、自己紹介を始めた。
「お…オリフィエル・レイク、聖騎士…です。えっと…よろしく、です!」
少し早口でよろしくと言いながらも盾を使って隠れてしまった。こんな気弱な少女がちゃんと守ってくれるのか?タピオは不安になった。だが断るのは申し訳がない…とりあえずは入ってもいいが、もし駄目のようならば即解雇するとオリフィエルに伝えた。すると彼女は戸惑いながらも明るい表情を浮かべた。
「えっいいんですか…?ありがとうございます…み、皆さんのお役に立てるように頑張り、ます!…それで、あの、先に話しておきます。ボクは、男です!……あっいや、隠そうとか、騙そうとしたりするわけじゃなくて、この格好の方が落ち着くというか…はい、すみません」
なんとオリフィエルは男だった。何か深い理由がありそうだが、これ以上は聞かないことにした。
最後の一人を探そうとすると、白磁のような肌で服装は全体的に赤く、白髪のウェーブがかったロングヘアの魔女のような少女が一時間以上前に貼り付けたチラシを持ってやって来た。
「お前が…ヨウシア・リトニウスなのか…?生きてたんだな!大きくなったな!」
感動で今にも泣き出しそうな目でこちらへ近づいてくるが、ヨウシアは相手に見覚えがなく、不思議そうに首をかしげる。
「…誰だお前」
「あれ…人違いか?…同姓同名で見た目も面影があるのにな……すまなかった。改めて自己紹介するぜ。オレはトルーデ、治療が得意な良い魔女だ!ん?巫術師と言った方がわかりやすいか。治療ができる奴いねぇんだろ?よかったら仲間にしてくれよ、巫術師としての腕は保証するぜ!」
ヨウシアを困惑させた謎にまみれた女だが回復は必須、断ったら何をされるかわからない…メンバーとして迎えよう。タピオは決めた。
「よし、話のわかる奴でよかった!これからよろしくな!」
ギルドメンバーが揃った。オネエ将軍に臆病な騎士、自称魔女の巫術師…個性的な面
子だ。ヨウシアは変わらず嫌そうな顔をしたままだった。
「ところで皆は何の為にマギニアへ?僕とヨウシアは秘宝…お金目当てだよ」
タピオは今回の目的を聞こうとした。最初に教えてくれたのはカブラギだ。
「私はアーモロードの世界樹の時から交流を続けている国の王様にレムリアの秘宝を持ち帰るように、と言われてここへ来たの。途中までは協力するけど、秘宝は絶対に渡さないわよ!」
「それはどうかな?もし秘宝を見つけたら争奪戦になりそうだね。負けないよ」
カブラギの後に続くようにトルーデ、オリフィエルが話し始める。
「オレは薬の材料になりそうなものを求めて来たんだぜ!秘宝はあんまり興味ねぇな。あったら貰う程度だ。あと長年探している人がいてな…まぁお前らには関係ねぇよな、悪いな」
「えっと…富も名誉も要りません…ボクはただ、臆病な性格を直して、強くなりたいだけ…です」
「それだけか?だったら無理して冒険者になる必要ないだろ…大体すぐに隠れがちな奴が聖騎士だと?笑わせてくれる」
今まで黙っていたヨウシアが急に喋り出した。突然の出来事に周囲が驚く中、オリフィエルは震えながら話した。
「あ…違うんです…ボクの憧れている『あの人』が冒険者で…『あの人』のようになりたくて……聖騎士というのは、昔騎士の一族だったので、多少の心得があるだけで…でも勘合されちゃって今はただの一般人なんです…ごめんなさい…嘘ついてました…確かにヨウシアさんの言う通りです…ボクは弱い……やっぱり辞めます…帰ります…」
オリフィエルは涙を浮かべていた。ヨウシアの辛辣な態度に激怒したカブラギが反抗する。
「ちょっと貴方、言いすぎよ!顔は良いけど中身は最低なのね!」
「俺は正論を言っているだけだが?とんだお人好しだな。そんなんじゃ樹海で無駄死にするだけだぞ?カブラギはまだマシだが、クソ魔女…トルーデとかいう俺と顔見知りのような態度を取りやがった女、怪しすぎる。俺とトルーデは何の関係があるんだ?そんな奴見たこともないし、記憶にあるのはタピオと過ごした日々だけだ」
「…!」
トルーデがヨウシアに掴み掛ろうとした瞬間、タピオが仲裁に入った。
「はいはい、ここまで!ヨウシア、少し黙ってくれないかい?」
「……ふん」
ヨウシアはどこかへ行ってしまった。完全に落ち込んでしまったオリフィエルを励まそうとするカブラギ、苛々しているトルーデ。
「フィエルちゃん、気にしなくていいのよ?これから頑張りましょ!ねぇタピちゃん…だったわね、あの男何なの?あの子を辞めさせた方がいいんじゃない?」
「全くの通りだぜ!あいつ絶対オレの探しているヨウシアじゃねぇ!」
このままだとまずい。そもそもマギニアに来た目的を聞こうとしたタピオが悪いのだが、ここはなんとか落ち着かせないといけない。
「皆…こんなことになったのは話を振った僕が悪いよね。ごめんね。でもヨウシアを外す…それだけはできないんだ。冷たく感じるかもしれないけど、本当はいい人なんだよ。僕の為に何でもしてくれたんだ。でも昔は誰に対しても優しくて、こんな酷いこと言うような人間じゃなかったんだけどなぁ…そうだ、冒険者ギルドで登録しに行かないと!ヨウシアを連れ戻すから先に行ってて!」
騒ぎは落ち着いたものの、最悪なスタートとなってしまった。ヨウシアがああなったのは僕の我儘のせいだ…と苛むタピオであった。
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