覆い隠した恋心達
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どこまでも続く碧い碧い海、その上を大小20隻近くの船が隊を成して進んでいる。
この大航海時代、最大の海賊と呼ばれる船の指揮を執るのは、バーソロミュー・ロバーツという男。
日に焼けた浅黒い肌に整った顔立ち、どこぞの貴族のような洒落た服装は、他の荒々しい海賊達とはどこか違うバーソロミューは、船に規律を作り多くの船員達をまとめあげる優秀な船長であった。
しかし、どんな人間にも欠点はあるように、彼にも欠点はある。
月明かりが照らす甲板。
向かいで酒を酌み交わすバーソロミューの顔が薄らと赤らんでいるが、ナマエはその赤が酒に酔ったからではないのを知っている。
「やっぱり、先日寄った港町のあの目隠れ少女は良かった……目隠れこそ至高。むしろ人でなくても良い……」
ほうっと興奮したように息を吐くバーソロミューに、ナマエはいつもの事だと呆れたように酒を口に含む。
そんなナマエはバーソロミュー右腕であり、奴隷船員時代からの付き合いである。
そして悲しいかなナマエはそんな目隠れ大好き変態な彼に、恋をしていた。
何故恋に堕ちたのかと言われれば、そんなのナマエ自身が知りたい。
それこそこの船の中では1番古く長い付き合いで、だからこそ彼の残念なとこ等沢山知っていたはずなのに、それ以上に良いところも沢山知っていて、気がつけば彼を目で追っていて、まさかと思った時にはもう遅かったのだ。
「……俺ももう少し、前髪伸ばすかな」
可能性が無くても、想いを告げるつもりはなくても、それでも少しでも彼に良いと思われたくて、ぽそりと声が漏れる。
「ん、何か言ったかナマエ?」
「何でもない!」
一気にジョッキの酒を煽れば、喉が焼けるように熱くなった。
海賊に戦闘は付き物で、それはこの船でも変わらない。
銃声と怒号、刃物同士が当たる金属音がそこかしこから聞こえてくる。
ふと、メインマストの柱の影からバーソロミューに向かって構えられた鉄砲。
向けられている本人は別の敵の相手をしながら、砲弾指示をしているせいで気づけていない。
ナマエは走り出すと同時に銃を構えた。
「バーソロミューッ!!!」
パンッという乾いた発砲音、頭から血を拭きながら倒れる敵、一瞬の熱と強い痛み。放たれた鉛玉はバーソロミューに届く前にナマエの右目を貫いていた。
「ッナマエ!!」
バーソロミューの叫び声。
焼けるような痛みに意識が朦朧とする。
それでも撃たれたのが目で良かったのかもしれないと、そう馬鹿な考えが頭をよぎる。
だって、そしたら、もしかすると、目隠れとか何とかいうバーソロミューの性癖に、自分が掠ったりするかもしれないと、自分は思った以上に彼のことが好きなのだと、そう気がついて思わず自嘲が漏れる。
近づく周りの敵を撃ち殺しながら、それでもナマエに必死に声をかけ続けるバーソロミューの顔が、ぼやけて滲む。
彼の顔が見えづらくなるのが残念で仕方ない。
「……ほら、お前の好きな目隠れ、って、やつじゃ……ないのか……?」
「巫山戯るな……こんなの目隠れなんて言わない……!」
冗談混じりに言えば、苦虫を噛み潰したような返事が返ってくる。
「……それは……残念、だなぁ……」
本当に、残念だ。
バーソロミューの息を飲む音がして、そして必死に名前を呼ばれたような気がして。
そして、意識を失った。