転がった恋路の行方
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「なんとも思わないのですか」
そう声をかけてきたワルキューレの名はなんだったかと、ふとそんな事へ思考を巡らせた。
この金の髪の持ち主は、確かスルーズと言ったか。
いつまでも返事がないのを訝しんだのか、スルーズが眉根を寄せたのを見て、随分とまぁ感情豊かになったものだと、感心しながらへらりと笑って視線を動かすと、スルーズも同じ様に視線を向けた。
「あれの事か?」
「……えぇ」
視線の先には、仲睦まじく寄り添う夫婦がいた。
1人はナマエの親友、英雄シグルド。
1人はワルキューレの長女、ブリュンヒルデ。
微笑み合う2人の様子に、ナマエは眩しいものを見るかのように目を細めた。
「貴方は、あの男を愛していたのではないのですか」
どんな心境の変化があったのかは知らないが、といってもきっとそれは、視線の先の光景が原因なのだろうが。最近このワルキューレ達はカルデア内で、恋愛関連の書物やゲームを積極的に取り入れているらしいと聞いたのだが、ついにその矛先がこちらへ向いたかと、 その随分と直球的な言い方に、思わず苦笑が漏れた。
答えを待っているであろうスルーズへ、ナマエはそっと口を開いた。
「あぁ、今でも愛してるよ」
その言葉に嘘偽りはない。
ナマエは死した今でも、シグルドという男を愛している。
たぶんきっとこれからも、ナマエはシグルドの事を愛し続けるのだろう。
ならば、と口を開いたスルーズは、けれどもどうこの疑問を形にすればいいのか分からずに、結局その口を閉じてしまう。
そもそもの話、ワルキューレは勇士の魂を選定し、ヴァルハラへ導くことを目的として製造された、ある種の機械のようなものだ。そこに感情というものは不要とされていた。
だからこそ、彼女達の感情はとても未熟だ。それこそ、己の疑問を言葉にする術が分からぬほどに。
それでも知りたいと願う彼女達の姿を、ナマエは微笑ましいとも思う。
だからナマエは、スルーズの抱く疑問に、真摯に応えることにしたのだ。
「略奪してやろうとか、振り向いてもらえるようにだとか、そんな事をするには俺は彼奴らに情を持ち過ぎた」
「情、ですか」
そうだよ、と笑う。
スルーズは、静かにその言葉の続きへ耳を傾けた。
「恋をした。1生に1度って言っていいほどの恋だった。けどな、それ以上に俺はシグルドを愛していたんだよ。それこそ、この命を差し出すくらいにはな。
お前達も、姉の泣き顔より笑顔の方が見てて良いだろ?……まぁ、なんだ。結局はそういう事なんだよ」
あぁ、そうか。と思った。ブリュンヒルデとシグルドが共に居ることに胸がモヤつくのに、けれど自分達はお姉様が幸せそうに笑っている姿を見るだけで、それだけでいいかと思ってしまったのだ。その笑みを見て、“恋”を知りたくなったのだ。
「ナマエ!」
こちらに気付いたらしいシグルドが、手を振っている。隣に微笑む戦乙女もまた小さく手を振っている。
あぁ、なんて幸せな光景なのだろうと、お世辞でも皮肉でもなくそう思う。
「……貴方の傍にいれば、私達にもその情というものが、愛というものが理解出来るのでしょうか」
「さぁな」
ナマエもまた大きく手を振り返す。
その顔に浮かぶ笑みは、一等優しいものだったのだと、後にもう1人の戦乙女は語ったのだ。