覆い隠した恋心達
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光を束ねた様な金色の髪が黄雀風にさらさらと揺れている様を見つめていれば、ふっと彼と目が合う。にかりと浮かべられた太陽のような笑みに、私はそっと目を細めた。
坂田金時
源頼光四天王、平安時代最強の神秘殺し
けれどその本人は派手好きで暴れん坊なくせをして、情に厚い正義漢。まるで主人公のような、そんな男だった。
そんな男に、恋をしていた。
ナマエと金時の関係は、親友のよう兄弟なのようなものだ。
同じ頼光様に拾われた者同士、同じ釜の飯を食い、共に眠り、共に鍛錬に励んだ。
けれど現実とは非常なもので、メキメキと強くなる金時との差は段々と大きくなり、彼が頼光四天王と呼ばれる頃には、私と金時が過ごす時間は殆どなくなっていた。
「金時は、あの鬼の事が好きなの?」
からかい半分、本気半分で投げかけた言葉に、金時の顔がぶわりと赤く染る。
「ン、ンなわけねぇだろっ!」
必死に否定する金時に、冗談だよと笑って返せばあからさまにほっとした顔。
その態度で察してしまう。
あぁ、やっぱり君は、あの鬼の少女が好きなんだね。
胸がツキリと痛む。
金時に衆道の気はない。男同士だから、金時は私を兄弟だと、親友だと思っているから、そういうどうしようもない壁を乗り越えることも出来ず、恋心を殺そうと必死になっていたのに、あの鬼は、酒呑童子という鬼は、種族という壁も殺しあう者同士だということもものともせずに金時の心を奪っていってしまった。
それが憎くて、妬ましくて、どうしようもなく羨ましかった。
だから、頼光様が酒呑童子を討ち取った時、嬉しくてたまらなかった。もしかしたら、金時が自分を見てくれるのではないかと、そうでなくても彼の心がもうあの鬼にないのならば、それで良いと、そうして彼の顔を盗み見て、後悔した。
あの時の金時の表情を、なんと言い表せばいいのだろうか。
けれど好いた人のあんな表情を見て、喜べる奴はいないだろうことは分かる。
そうしてナマエは理解した。
自分があの鬼に、一生叶わないことを。
酷い罪悪感と絶望、最低な気分だった。
いっそ自分も人でなくなればいいのにだなんて、そんなことを思ってしまったバチが当たったのだろうか。
とある妖討伐に来た頼光様率いる軍は、壊滅状態にあった。
残ったのは撤退する軍の殿を務める私と、沢山の遺体と、そして血に濡れ笑う妖。
身体中痛くて仕方が無いのに、最後まで自分も残ると言ってれた金時の言葉が嬉しくて、笑みが浮かんでしまう。
もしも私が死んだら、金時はあの日の鬼の少女が死んだ時のように、悲しんでくれるだろうか、なんてそんなことまで思ってしまって。
そんなの、有り得るはずないのに。
けれど、それでも、あの鬼の少女に及ばずとも、私の死を恋したあの男が悲しみ嘆いてくれたのならば幸いだと、そう思ってしまう心は、どれほどに醜いのだろう。
自嘲の笑みが漏れたが、すぐに引き締めて妖を見据える。
お互い睨み合い、そして同時に飛び出した。
ぐちゃりと、私が妖の心臓を突き刺したのと、妖が私の心臓をその手で貫いたのはほぼ同時だった。
まるでこの恋心ごと握り潰されてしまったようで、何故かそんな私を妖は、目を見開いて凝視しているようだ。
けれどそんなことを思ったのも束の間に、私の意識はそのままふっと、解けて、消えていった。
妖が一匹、そこに居た。
周りは見渡す限りに死体の山、その中で妖だけが立っていた。
胸を抑え、その目からほろり、ほろりと涙を流している。
ほろり、ほろり、流れるそれは止まらずに、地面に落ちてはシミになって消えていく。
そのまま妖は姿を消し、以降その妖が悪さを働く事もなくなった。
そして偶然か否か、とある男も姿を消した。
妖討伐で殿を務めた男だった。
遺体も何も見つからず、今でも金色の髪の男がその行方を探し続けているという。
──────そう言えば、ここら辺には牛鬼という妖がでると言われてやして
へぇ、それはどんな妖なんだい?
あぁ、なんでも女に化けて人を喰らう狡賢い妖だそうで
それは恐ろしいね
それに何でも、牛鬼という妖は牛鬼を殺した人間がまた次の牛鬼に成ってしまうってぇ話で
あたしも次の牛鬼に成っちまうかもしれねぇ!
ハハッ、貴方じゃあ牛鬼を殺す前に殺されてるよ
そりゃ違ぇねぇ!……ところで旅の人、アンタどこから来たんで?
旅人は笑った。
京の都からだよ
黄雀風に、その髪が揺れていた。