転がった恋路の行方
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暗い暗い海の中を揺蕩うようなそんな感覚に微睡んでいた。
眠くて眠くて仕方がなくて、心地良さに身を任せ意識を手放そうとすれば、誰かの声が耳に届く。
─────……!
今にも泣き出してしまいそうなその声がなんだか放っておけなくて、俺は心地良さを手放してゆっくり目を開けた。
そして意識が浮上する。
ぼやける視界に何度か瞬きをすれば見えたのは木目の天井。けれど何となく感じる違和感に眉根を寄せ、気がつく。己の視界が半分失われていることに。
あぁ、そうだ。自分は銃弾からロバーツを庇って右目を打たれたのだ。死を覚悟していはずだが、案外自分は生命力が強かったらしい。
次いで段々と覚醒する意識に、体のそこかしこから走る鈍い痛みを主張し始め、思わず唸り声が漏れる。
「ッ!目が覚めたのか!?」
彼にしては珍しい慌てたような声が聞こえたと思えば整った顔立ちを焦りに歪ませこちらを覗き込む親友の姿。
バーソロミュー
そう名前を呼ぼうとして、代わりに掠れたような音と空咳が出る。
その様子に慌てたようにバーソロミューが水を差し出してくれだので、有難く喉に流し込んだ。
「……どれくらい、眠ってたんだ」
「そうだな、ちょうど2週間程度か」
2週間と言葉を反諾する。どうやらそこそこ長い間自分は眠っていたらしい。
ゆっくりと息を吐く。もう潮時だろう。
右目が潰れてしまった今、もう海賊としてやっていける自信がなかった。
寂しいが仕方ないかと考える。
使えない奴を置いておくほど、海賊は甘くはない。それに何より俺がこれ以上バーソロミューに、好きな相手に無様を晒したくなかったし、バーソロミュー本人の口から直接船を降りろと言われたら、ショックが大きすぎる。
「次港についたら、俺は船を降りようと思う。それまでは体がこんな状態だし、迷惑をかけると思う、け、ど……」
そこまで言いかけて、これ以上言葉を出すことが出来なかった。
俺を見つめるバーソロミューの顔から、ストンと表情が抜け落ちていたからだ。
ヒュッと喉が引つる。こんなバーソロミュー、今まで見た事がない。
「君が目覚めない間、私がどんな気持ちだったか、君に分かるかい?」
ギシリとベッドが軋む音をさせ、バーソロミューが俺の体を跨ぐように乗り上がる。
無表情が歪んだ笑みに変わると、そっとのばされた手が俺の頬を撫ぜた。
「まぁ、分からないからそんなことを言うのだろうけど」
頬を撫でるバーソロミューの手がゆっくりと、俺のもう意味の無くなった右目をなぞる。
「海賊が、自分の宝を手放すわけないだろう?」
悪い顔だと心底思う。海賊と呼ぶに相応しい笑顔と、瞳から僅かに覗く熱に俺は悟ってしまう。
きっともう、あの暗い海の底には還れない。
これが俺の抱いた恋心の、結末なのだろうか。