覆い隠した恋心達
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ナマエは頭は悪かったが、その分勘のようなものはよく働いた。
もうそれはある種の才能のようなもので、ナマエは一目見たときからモリアーティがヤバい奴だと勘づいていた。
けれどやはりナマエは馬鹿だったので、何がどうヤバいのか知りたいという知的好奇心に負けて、モリアーティに近づいた。
「モリアーティくーん!あっそびーましょー!!」
「う〜ん、君は今日も元気だねぇ!元気すぎるくらいじゃないかな!?」
その結果2人は親友と呼べるような関係にまでなった。少なくともナマエはそう思っている。
本当のところモリアーティがナマエの事をどう思っているかは分からないが、向こうからお茶に誘ってくれたりするし、嫌われてはいないと思う、思いたい。
けれどそれがどうしたことが、近頃モリアーティを見ていると、心の臓がドクドクといつもより強く脈をうち、ホワホワと温かな、それでいて苦しいような気持ちなることが多くなった。
この感情はモリアーティの邪魔になる。
馬鹿なナマエでも、それだけは理解出来た。
もしもの話、ナマエがモリアーティと同じような頭脳の持ち主であったならば、まだ可能性があったかもしれないと考える。
例えば、今噂の顧問探偵というシャーロック・ホームズとかいう人物くらいの頭脳があったならどうだっただろうか、そう考えずにはいられない。
いっそ自分も、彼の駒の1つとしてあれたならば、こんな想い抱かずにすんだのだろうか。
それでもやっぱり、ナマエはモリアーティのことが好きなってしまっただろうから、どうしようもないなと笑う。
そんなナマエが出した結論は、モリアーティの前から消えることである。
モリアーティと会えなくなるは嫌だけれど、モリアーティの迷惑になること、ましてや嫌われてしまうことが何より恐ろしかった。
そうと決まれば善は急げ。
妙なところで行動力のあったナマエは早速列車のチケットを購入すると迅速に、それでいてモリアーティにバレないよう細心の注意でもって着々と荷造りを開始した。
「ところで君、どこかに行く用事でもあるのかい?
それこそ、遠く引っ越すような大きな用事さ」
「へっ!?」
まぁ、そんなナマエの細心の注意も、モリアーティの前では意味をなさなかった。
「あぁ、えぇっと……あの、そう!仕事!仕事でちょっと地方まで行くことになって……あ、あはは……」
必死に頭を捻らせて出した弁明は、きっとモリアーティからしたらバレバレだろう。
それでも彼から目をそらすことは無かった。
真っ直ぐにモリアーティの目を見る。
「……ふーん!なんだそう言うことだったの!
それならそうと言ってよ、心配したじゃないか」
それ以上、モリアーティがこちらを探ってくることは無かった。
ほっと息を着く。これでいい、これで良いのだ。
軋む心に蓋をして、笑みを浮かべた。
拝啓ジェイムズ・モリアーティ様
一通の手紙に目を通す。
それはモリアーティの、馬鹿な親友からの手紙であった。
彼には似合わない、バカ丁寧で畏まった挨拶から始まり、一方的な別れで締めくくられた手紙。
最近何やら隠れてやっていたようだが、これだったのかと、モリアーティはため息をついた。
「全く勝手な内容だ……
この悪のカリスマから逃げ切れるとでも思っているのかね」
彼が何を思ってこの手紙を渡し、逃げるように消えたのかは大体察しがついた。
彼の想いに応えることはいまだできないが、それでも彼の傍にいることは、モリアーティにとってそれなりに楽しく、心地の良いことなのだ。そう簡単に手放せるものでは無い。
「君は少々、悪のカリスマを甘く見ていたようだよ」
巨悪な蜘蛛の糸に絡め取られていることに気づかないまま、哀れな蝶は列車に揺られ行くのだ。