覆い隠した恋心達
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好きな男がいた。
叡智の結晶の奥で煌めくアイスブルーの瞳。超がつくほどの堅物で正義感が強いくせに、どこかズレたところがあるところも好きだった。
恋した相手の名前はシグルド。北欧の英雄。
そしてナマエはそんな彼の友人だった。
ナマエには1つ悩みがあった。
それは大切な友人であり、想い人のシグルドとシグルドの恋人、ブリュンヒルデのことであった。
2人は本当に仲のいい恋人同士で、結婚を誓い合っていた。
けれどシグルドは、王グルービルからある予言を受けていた。
それは、ブリュンヒルデを助ければ破滅する、というものだった。
その予言を受けてなお、シグルドはブリュンヒルデを助け、恋に落ちた。
初めのうち、ナマエはその恋に反対していた。
誰だって友人が、ましてやそれが好きな相手ならばなおのこと。
けれどブリュンヒルデの愛を受け止め、それに応えるシグルドと、シグルドを深く愛し多くの知恵を授けるブリュンヒルデ。破滅の予言など嘘のように愛し合う2人。
初めてだった。
シグルドのあんな笑顔を見たのは。愛おしいと物語る瞳を見たのは。
それらを向けられるのは、ブリュンヒルデただ1人。
あぁ、ならば仕方がない。
だからナマエは、2人を陰ながら支え見守った。
シグルドとブリュンヒルデ、ただ2人が幸せであれるように。
けれど予言は訪れた。
グズルーンという女がシグルドに惚れ込み、忘れ薬を飲ませシグルドからブリュンヒルデの記憶を消し去りあれやこれやと吹き込んだのだ。
ナマエが解毒薬を手に戻ってきた時には全てが遅く、試練を乗り越えた者と結婚するという誓いを立てていたブリュンヒルデは、グンナルにルーンで化けていたシグルドが試練を乗り越えたことにより、グンナルと結婚させられていた。
ナマエは己の無力を呪った。
全てを思い出したシグルドに、妻ブリュンヒルデを失うことを恐れた夫グンナルは、弟グットルムにシグルドを暗殺させるとこを決めた。
懐に忍ばせた短剣が、シグルドの命を奪う
「させるかよっ!!!!」
甲高い金属音。
グットルムの短剣が、シグルドの命を奪うことはなかった。
ナマエが剣で、グットルムの短剣を弾き落としたからだ。
「シグルドとブリュンヒルデの仲を引き裂いておいて、そのうえシグルドの命まで奪わせるわけないだろう!!」
暗殺に失敗したグットルムの怒りの混じった殺意の目が、ギロリとシグルドを背に庇うナマエを睨む。
シグルドが小さくナマエと名前を呼ぶ。
「謝るなよ。俺は、お前に謝ってほしくてやったわけじゃ、ない」
「……感謝する、我が友よ。当方は貴方からのこの大恩を、生涯忘れはしない」
その言葉だけで、充分だった。
「いいから、早く行け」
シグルドは確かに頷くと、力強く地を駆ける。
去り行くシグルドをなおも追おうとするグットルムの前へ、立ち塞がった。
「そこを退け、ナマエ!」
「悪いけど、それは出来ない相談だな。
愛すれば破滅するって分かってるくせに、それでも一目惚れだって、愛せずにはいられないっていうなら、友人として俺が出来る事なんて、その破滅を少しでも遠ざけてやること位だろう」
合図もなく互いの武器を奮う。
どうしようもなく報われない恋だった。
だからこそ、せめてシグルドとブリュンヒルデには幸せになって欲しい。
2人共が生きてさえいれば、希望はある。
予言だって、全てが全て現実になるわけじゃない。
あとムカつくのでグンナルとグズルーンのアホどもは1発と言わず何発かぶん殴ってやる。
ナマエは自らが恋した男の恋を守るために、ただ剣を奮った。
「ヒトとは、実に不可解です」
恋に破れた死に体で、それでもなお浮かべられた男の笑みに、ぽつりとそう零したのは姉妹の誰だったか。
けれどきっとそんな思考も意味は無いのだろう。だって、自分たちの仕事はただこの英雄の魂をヴァルハラへと導くだけなのだから。