覆い隠した恋心達
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「お前、龍馬の事が好きなんだろう」
男に投げかけたそれは、疑問ではなく確信であり、お竜さんの中では分かりきった事実であった。
けれど男は、ナマエは、その言葉に答えるでもなく、ただ困ったように笑むだけだった。
お竜さんは、ナマエという男が嫌いだ。
いつもヘラヘラ笑っている癖にどこか何かを諦めているようで、愛想が良く人懐っこく見えてその実、敵は居ないかと目を光らせて簡単に胸の内を見せはしない。その癖寂しがり屋なところがある。なんともちぐはぐで面倒くさい男。
けれどそんなナマエのことを親友だと龍馬が笑うものだから、仕方なくお竜さんもナマエに付き合ってやっている。
ただそれだけの関係だ。
「お願いがあるんだ、お竜さん」
嫌だと断ろうとして、ナマエの目が真っ直ぐこちらを見つめているものだから、思わず口を閉ざしてしまう。
「龍馬のこと、守ってやってね」
薩長和解に向けて動き出した龍馬は、これからより一層敵を増やしていくだろう。
人々のより良い明日のため、笑顔のために活動する彼には、悲しいことに敵も多い。
そいつらから龍馬を守っていたのは、志を共にする仲間たちとお竜さん。そしてナマエもその1人であるはずなのに、まるで自分をその勘定から外したような言い方に、お竜さんは眉根を寄せる。
「お前に言われなくても、龍馬はお竜さんが守る」
当たり前のことを言うなと不機嫌を声音に乗せて返せば、ナマエはただ安心したように笑った。
その数日後に、ナマエは死んだ。
薩長同盟をよく思っていない連中が居ることは、龍馬の耳にも届いていた。
ナマエのそばに転がった幾つかの死体が、その連中なのだろう。
きっとナマエはこいつらが襲いに来ることを知っていて、1人で戦い、1人で死んでいったのだ。
ああ、なんて酷い奴。狡い男。
やっぱりお竜さんは、ナマエという男が嫌いだった。最早それは憎んでいると言ってもいい。
守ってくれと頼んでおきながら、龍馬の心に一等深い、消えない傷を遺していきやがった。
それとも、それこそがナマエの思惑だったのだろうか。
想いを告げられないのなら、いっそ傷になってまで龍馬の心に残りたかったのか。
ただ単に、想いを抱え続けることが辛くて逃げ出したいと思った末のことなのか。
結局のところそんなも、どちらだろうと関係ない。
涙の1滴も流せないまま、親友の亡骸を呆然と抱きしめる龍馬の姿が、全てなのだ。
憎たらしいほど真ん丸な月を睨みつける。
地獄に堕ちてろ、馬鹿野郎。