緩リクエスト募集
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「甚爾は絶対に愛して、愛される人に出会えるよ。
だから早くこんな場所から出ていった方がいい。出ていける力は十分すぎるくらいにあるんだから」
そう言って微笑む言葉は、どこかいつも諦めを滲ませていた。
同じ禪院の名前を持つ男はその家において殆ど唯一と言っていい、蔑むでもなく暴力を振るうでもなく、どこまでも穏やかに柔らかに、世間一般的にいう家族の愛情というものを持って禪院甚爾に接してくれる存在であった。
甚爾より小さくて脆い体で、いつだって甚爾を庇い匿ってくれる。
泣きそうになりながら手当してくれる手を、隠れて差し出してくれた少し不格好か握り飯の味を、抱きしめてくれた熱を愛と呼ばないなら、何というのか。
愛され方を、愛し方を、甚爾に教え与えた癖に、いつだって男はここよりもっと良い場所があるのだと甚爾に言い続けた。
実際そうなのかもしれない。
けれど甚爾にとっての1番は、いつだって男の傍以外には無かった。
だからこそ許せなかった。
与えておいて、教えておいて、自分を手放そうとする男のことを。
それが男が甚爾に差し出す一等上等な愛なのだとしても、甚爾にとっては暴力と蔑みの中にあった歪な愛の方が重要だったのだ。
だから、男が任務先の事故で呪物の呪いにあてられて、“ヒト”を食べねば生きていけなくなったのだと聞いた時、甚爾は「あぁ、これだ」と柄にもない高揚を覚えた。
「天与呪縛のフィジカルギフテッド、なんてもんのおかげでな」
四方八方に呪いを抑えるための札が張り巡らされた小部屋で、荒い息を吐きながら跨る男を見下ろす。
「と、うじ?」
「お前に多少食われた位じゃあ、何の問題にもならねぇよ」
ギシリ、と床を軋ませて甚爾が男に馬乗りになる。
体を蝕む呪いで纏まらない思考、それでも自身を見下ろす甚爾の姿に妙な予感が身を包む。
「なに、を、とうじ……」
それは甚爾の手に握られた小刀によって確信へと変わっていった。
「最初に俺に“これ”を教えたのはお前だろ」
ズプリ、と甚爾の手に握られていた小刀がそれを握る手とは反対の掌を甚爾自身によって真一文字に切られていく。
途端に届く血の香りが、流れる赤が、どうしようもなく魅力的で、それを飲み干したくてたまらなくて、掌から腕へと流れ落ちる血と比例するように口の中に唾液が溜まる。
これは、いけない。許されない。
この場から逃れようと身を捩る男の体を押さえつけて、甚爾は血の流れる掌を男の口へと押し当てた。
「ここよりもっといい場所があるっていうなら、お前もそこに連れていく」
必死に引き結んでいた唇を無理矢理こじ開けて、強引に血を飲みこませてやれば男の体は次第に抵抗を辞めてくたりと窮地する。
「これだけ俺に与えておいて、離れられると思ってたのか」
熱い舌がどこか遠慮がちに傷口をなぞって、血を舐めとった。
その遠慮も次第になくなっていって、荒い息を漏らしながら必死になって掌に舌を這わせる男の姿を、仄暗い熱を帯びた目で見下ろした。
「なぁ、ナマエ」
夢中になっている男の耳へ、唇を寄せて囁く。
「ずっと一緒だ」
その言葉は、呪いに似ていた。