緩リクエスト募集
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
ゴオッ、と渦になって燃え上がる炎。
少女の形をした炎の精霊イフリータ、そのヒト成らざる鋭い爪が青年、ナマエの体を燃え焦がしながら切り裂いていった。
「ナマエっ!」
「……っぁ!」
藤丸がそう叫んでも、ただ悲鳴にすらならない短い喘ぎ声を漏らして、ナマエの体は光の粒子になって掻き消えていく。
その様を、彼の船長である黒ひげは一瞬見つめ、そうして次の瞬間にはまだ僅かに姿の残るナマエの体ごとイフリータに向けて銃弾を放った。
「全く、マスターにはそろそろクラス相性というものを学んで欲しいんですけど!拙者はライダー、相手はキャスターですぞ?そこんとこ分かってます?少女形態のエネミーなら良いなんて事もないですからな?」
「は」
黒ひげの銃弾はナマエの体をかき消しながら、イフリータの肩を貫いていく。
硝煙の上がる銃口は敵に向けたまま、黒ひげはいつもと何ら変わりなく、いつもの巫山戯た口調でそう言った。
ナマエはサーヴァントではない。
あくまで黒ひげの船員、魔術的にいうならば使い魔の1人だ。
船員だから当たり前なのかもしれないが、ナマエは黒ひげを大層慕っている。
いつだって「船長、船員」と黒ひげの後ろを追いかけて、黒ひげだってそんなナマエを「うるせぇぞ」なんてぶん殴ってはいたけれど、黒ひげなりに気にかけて構ってやっていたように思う。
それでもナマエが攻撃されて、もう助からないのだとしても瞬時に銃口を向けてその体ごと敵を撃ち抜いて、そうしてその銃弾がトドメになったのだとしても、藤丸の目の前で「んもー、困ったマスターですぞ」なんて口をへの字に曲げる黒ひげが、何一つ変わらないその様子が、藤丸の目にはイフリータよりもよほど、得体の知れない恐ろしいものに写った。
そんな藤丸の様子なぞ気にもせず、黒ひげは指に引っ掛けた銃をくるくると数度手遊びの様に回し出す。
いつもと変わらずに。
そうしてふと、思い出した様に口を開く。
「あぁ、そうだ、船長の許可無く勝手にやられるなんざァ、あのアホは後で仕置きだな」
低い声がそうポツリと呟いて、次の瞬間には先程までくるくる回っていた筈の銃がパンッと火を吹いて、イフリータの胴体を掠めていた。
「次いでに覚えておきな。それがどんな木っ端だろうと、海賊のもんに手出したらどうなるかってな」
ま、次なんてないけどな、なんて。
常のおどけた声と口調とは違う、低い声と銃口は正しく彼が歴史に名を残した黒ひげという海賊だという事を示していた。
炎の巻き上がる音、そしてそれに合わせるように起こった数度の発砲音を最後にイフリータが消滅したのを見届けて、黒ひげはVサインを片手に藤丸を振り返った。
「マスター、拙者の活躍見てましたかー!?相性不利なエネミー相手に勝った拙者へのご褒美に〜聖杯の1つや2つ、くれてもいいですぞ」
「え、あぁ、うん……次からはクラス相性よく見て気を付けるね。あと聖杯はあげないよ」
ケチぃ〜、なんて唇を尖らせる黒ひげの、さっきまで敵へと銃口を向けていた姿との差に藤丸は人知れず息を吐いた。
知っていたはずだ。分かっていたはずだ。どんなにおちゃらけていようとも、
彼は“黒ひげ”であると。
オケアノスの海で敵対していた頃から、そしてカルデアであっても。
彼の言動に気を抜いて、それでもふとした時にこうして思い知らされるのだ。
彼が心底から海賊であるのだと。
そういう所に、ナマエは海賊として惚れてるのかな
なんて、黒ひげが聞けば「男に惚れられても嬉しくないんですけどー!」なんて顔を顰めそうな事を思いながら藤丸は帰還指示を出すのだった。
「ひっぐ、えぐっ」
情けない声と縮こまった姿を黒ひげの自室の前で見つけて、藤丸は足を止めた。
「おう、美少年でもねぇ男の泣き声なんて何の得にもならねぇんだ、もう1発弾喰らいたくなきゃ静かにしてろ」
微塵も容赦のない辛辣な黒ひげの言葉に、それでも律儀に口を固く結んでナマエはぶんぶんと首を縦に振った。
カルデアの廊下で「反省中」の札を首から下げたまま正座をするナマエを眺めながら、マスターはやっぱりこのギャップ慣れないなぁ、なんて1人思いながら、今回は自分にも非があるとナマエの反省時間を短くすべく黒ひげの背に声をかけたのだった。