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鶴丸国永は恋をしている。
それも自身の主である、審神者に恋をしている。
「と、今回はこんな感じだったな」
「はい、ご苦労さまでした」
執務室で遠征の報告を終えた鶴丸に、審神者がそう微笑んだのを見てから、鶴丸はわざとらしく「おっと、そうだ忘れてた」と声を上げた。
「どうだ、驚いたか?」
それは唐突に目の前に差し出された。
瞳に写った柔い桃色。そして僅かに鼻腔に届く甘い香り。
「......花桃?」
「大正解だ。帰り道に植わっていてな。随分見事に咲いていると思って眺めていたら、木の持ち主らしい男がひと枝わけてくれると言って、君の土産にとありがたく頂戴してきたわけだ」
どこに仕込んでいたのか、執務室に入る時には持っていなかったその花桃の小ぶりな枝をくるくると指で遊ばせながら、鶴丸は悪戯に成功した子供のように、にまりと口角を上げた。
「気に入ったか?」
「えぇ。本丸の桃も見事に咲きますが、こちらはまた少し色合いが違って面白いものですね」
鶴丸から差し出された花桃を受け取ると、審神者はそっとその花に顔を寄せた。
自分が贈った花に顔を寄せ、柔らかく笑みを浮かべる好いた相手を見るというのはどうしてそれだけで満たされたような気持ちになってしまうのか。
いつまでも眺めていたいと思うと同時に、花を見つめるその視線を自分に向けて欲しいとも思ってしまう。
随分欲深になったものだな、と内心苦笑を漏らした鶴丸に気付く事なくふと、そういえば、と審神者が顔を上げた。
「鶴丸は、花桃の花言葉は知っていますか?」
花言葉、そうオウム返し呟いて首を傾げた。
「歌仙兼定か光坊辺りなら知ってそうだが......残念ながら俺は専門外だ」
花言葉。
それを初めて知ったのはこの本丸に顕現してから暫くたった後。
確かそれを最初に鶴丸に教えたのは燭台切光忠だった。
初めて聞いた時は、人は花にまで言葉と意味を持たせるのかと驚いたのを覚えている。
「なぁ、その花はなんて意味を持ってるんだ」
自身の主であると同時に、好いた人でもある相手に贈った花の持つ意味。
せっかくなら良い意味であって欲しいが、なんて考える鶴丸を他所に審神者はそっと花桃の枝を指で撫ぜた。
「私はあなたのとりこ」
バチリと音が聞こえそうなほど真っ直ぐに、審神者の視線と鶴丸の視線がぶつかる。
「って、いうんですよ」
そう言って、審神者の口角が弧を描く。
紡がれたそれが花言葉なのだと理解していても、好いた相手から出たその言葉に鶴丸の胸が思わず脈打った。
「ふふ、顔、赤いですよ?」
くふくふと、今度は審神者が悪戯に成功した子供のように笑う番だった。
「からかわないでくれ......」
一方的に心をかき乱されているのに、それでもどうしようもないほどに愛おしくて堪らなくて。惚れた方が負け、とはよく言ったものだと思う。
審神者の花を愛でる手に、瞳に、表情に、今度はどんな花を贈ろうかともう次を考え始める自分がいる。
本丸の植物図鑑に花言葉は載っていただろうか。
今度は自分の意思で、花に意味を持たせられるように。