緩リクエスト募集
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カチ、カチ、と規則正しい秒針の音だけが聞こえる自室で、つい先程敷いたばかりの布団の上に審神者は座り込んでいた。
カチリ、とまた音がして短針が2度目の10を指すと少しして、ぎしりとほんの僅かに床板の軋む音が耳に届いたのをきっかけに審神者はと1つ息を静かに吐いてから顔を上げた。そうすればまるでタイミングを測ったかのように目の前の障子には人影が見えていた。
「主人、俺だ。入ってもいいか」
「はい、どうぞ」
許可を得たことをきっかけに開いた障子から顔を見せたのは、軽装姿の孫六兼元だった。
「今夜も不寝番に来た」
孫六は審神者の前へ腰を下ろすと慣れたような口ぶりでそう言った。
「もう何度も言ってますけど、不寝番は不要ですよ」
不寝番。読んで字のごとく寝ずに番をすることなのだが、内番は存在すれどそこに不寝番などというものは元々存在しない。
けれど何がきっかけだったのか知らないが、ひと月ほど前からこうして孫六が夜半に審神者の元を訪れては不寝番を申し出るようになったのだ。
別に孫六がそばにいるからといって眠れなくなるほど繊細な性格をしている訳ではないが、それでも気になるものは気になるもので。
審神者の自室には厳重な緊急用セキュリティ装置が設置されているから大丈夫だと言っても、保険はいくつ合ってもいいだろう?と躱され、孫六もきちんと寝た方が良いと言えば、昼間の空いた時間に寝ているから問題ないと躱されて。
そうして気が付けば孫六の不寝番が毎夜の事になってしまった訳である。
「ははっ、まぁそう釣れないことを言わないでくれ」
むすり、と唇を尖らせる審神者に孫六は楽しげに笑う。
審神者にとっては何が楽しいのか全く分からないが。
「まぁ、そうだな。不寝番を申し出たのは半分俺の我儘でもある」
我儘?と首を傾げた審神者にふっと吐息の混じりの笑みを浮かべると、審神者の頭をほんの少し乱雑に撫ぜた。
「俺の主人は随分人気者だからな。昼間はあっちへこっちへ引っ張りだこで......夜くらいは俺に独り占めさせてくれ」
己の手で乱れた審神者の髪を指先で梳かしながら孫六がゆるりと目を細めたのを見て、審神者の身体がギシリと固まる。
鏡を見なくても自分の顔が赤くなっているのが理解できてしまうのが嫌だった。
「好いた相手の寝顔を眺めながら夜を過ごせる。こんなに役得な事があるか?」
幾らだって夜を明かせるさ、なんて笑う孫六にとうとう耐えきれなくなったのか、審神者は唸り声と一緒に勢いよく布団に潜り込んだ。
布団の中から孫六の笑い声がくぐもって耳に届いた。
「斬るのは専門だが、どうにも色恋沙汰は不慣れでな。それこそ必死なんだ」
許してくれ、と丸まった布団の上からぽんぽんとあやす様に孫六の手が動く。
どこが不慣れと言うのか、なんて叫び出しそうな口を抑えて、結局今夜も孫六を追い出すことが出来なかった審神者はただ必死に目を瞑るのだった。