2019クリスマスリクエスト企画
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あの日、目の前で散っていたアイツが浮かべた笑みを、その笑みを今でも忘れられないでいる理由を、今でも分からないままでいる。
カルデアの召喚室で立香とマシュは、聖晶石の放り込まれた召喚サークルを、固唾を呑んで見守っていた。いつまで経ってもこの時は緊張しっぱなしだ。
一筋の光の円が収縮して弾ける。
ヒラヒラと辺りに舞う梅の花。
新たに召喚されたのは、見覚えのある浅葱色の羽織を着た柔和な男性の礼装だった。
「浅葱色の羽織……新撰組の方でしょうか」
「ガッツ付与か、ありがたいね」
礼装での召喚は、サーヴァントと違いエーテル体という実態を持たない。視認できる幽霊のようなものだ。
握手の代わりによろしくと笑いかければ、彼もそれに応えるように静かに微笑んだ。
レイシフトも無い麗らかな午後を持て余しながら廊下を歩いていた沖田は、視界の端で漂う浅葱色に目を見開いた。
ふよふよと立香の隣で浮遊する新しい礼装。
それはかつて凶弾により喪った同士の姿。
「ナマエさん、ナマエさんですよね!!」
勢いよくこちらに駆け寄ってきた沖田の顔には満面の笑みと、薄らとした涙の膜。
そんな自分の様子にしょうがないなぁと柔らかな視線を向けるナマエの姿は、生前から何も変わっていなくて、きゅうっと胸が締め付けられる。
「待っててください!今土方さんを」
「喧しいぞ、沖田。俺がなん……」
土方にナマエが来た事を知らせようとした沖田の背後から声がかかる。
それはまさしく、今まさに呼びに行こうとしていた土方だった。
土方はかつての同士であり友の姿に、言葉を飲み込み目を見開く。鬼の副長と言われる彼がうかべるには珍しい表情。
あれはかつて、目の前で喪った命だった。
自分を庇って潰えた命だった。
「……誰に付けるんだ」
「へ」
圧を感じる。言葉の裏に自分に付けろと言う圧を確かに感じる。
立香の頬がひくりと引き攣った。
「ひ、土方さんに付けようかなって、思ってま、した……」
宝具との相性も悪くないですし。と、返ってきた返事に土方は満足そうに頷いた。
「じゃあ、連れて行ってもいいな」
それこっちに聞くまでもなく確定事項ですよね?なんて聞けずに、立香はただただ頷くのみ。
そんな土方を窘めるようにポスポスとナマエが土方の頭を叩くが、実際には礼装故にただ空を切っているだけに終わっていたし、そんな事我関せずと、さっさと土方はナマエを連れて歩き出してしまっていた。
残された立香とマシュに、沖田がすみませんと苦笑する。
「土方さんとナマエさんは、すっごく仲が良かったんです。
だからはしゃいでるというか、悪気はないと言いますか……」
沖田の弁明に、立香は大丈夫だよと笑う。
生前の交友関係うんぬんはカルデアでサーヴァント達と過ごす中で経験済みだし、久方ぶりの再会を邪魔したいとも思わない。
新撰組の最後まで、否、今なお新撰組として戦う土方は、誰よりも多くの仲間の死を看取って来たのだろう。
沖田も土方より先に離脱している。
そんな土方の中でナマエの死は、1等深く土方に根付いているのではと沖田は思っている。
「……それに、土方さんナマエさんが自分を庇って死んだこと、気にしてるんですよね」
今度こそナマエの願いが、土方のそばに居たいという想いが叶えばいいと思う。
たとえそれが仮初の一時だとしても。
そして叶うのなら、土方とナマエの関係性が、想いが実ればいいとも思っている。
「……お似合いだと、思ってるんですけどね」
「沖田さん?」
なんでもないですよ!さ、行きましょ!
お詫びも込めて美味しいお茶でも淹れよう。
貸1ですからね、土方さん!
心の中でそう笑って、沖田は立香とマシュの手を引いて、食堂へと駆け出した。
ふわりふわりと、隣で浅葱色が揺れる。
その表情はどこか呆れているようだ。
「……マスターからの許可も出た。ならいいじゃねぇか」
礼装であるナマエから言葉はない。
それでも何となく伝えたいことがわかるところは、長い空白期間を感じさせない。
ずっと昔から同じ、土方の隣を行くナマエの姿。
「今は俺が新撰組だ。死ぬまで、いや、死んでもお前はそこにいろ。新撰組として戦い続けろ」
なんという無茶を言うのだろうか。
土方の目は真っ直ぐ前を見据えている。まるでナマエの返事が分かりきっているみたいに。
そうしてナマエも、しょうがないなという風に微笑む。
ナマエは何も言わない、前も今も伝えるつもりはない。
けれど土方が何も聞かないとは限らない、何も伝えないとは限らない。
けれど今はこれでいい。
これが確かな2人の在り方だった。