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不満、という言葉を全面に押し出す様にむくれた顔で腰に抱きつく茨木童子を、ナマエは困った顔で見つめていた。
「ちょっと挨拶に行くだけだよ」
「駄目だ!駄目だ!駄目だ!汝はもう魔の者なのだから彼奴らに顔を見せる義理などない!分かったら行くな!」
ナマエの言葉に更に強く腰に抱きついてそう吼える茨木の金糸を宥めるように撫ぜながら、ナマエは困ったな、と苦笑を漏らした。
もう何度目のやりとりだろうか。
カルデアに召喚され、サーヴァントとなったナマエは人ではなく、茨木の言う“魔の者”。わかりやすく言えば妖怪になっていた。
ナマエは生前に英雄と呼ばれるような武功も経歴も持ちえていない。
それでもこうしてここに呼ばれる事が出来たのは、“雪入り入道”という妖怪と成っているからだ。
実際は雪入り入道だけではなく雪男やら何やら色々混じっているのだが。
そんなただの人間であったナマエが何故雪入り入道と成り、サーヴァントとして現界できたのか。
それは後世に残った伝承が由来している。
『源頼光の屋敷には白い妖怪が潜んでいた。
冬のある日その白い妖怪は、屋敷の人間を殺した。
頼光に存在が露見した白い妖怪は、追いかける頼光から逃げ、雪降る山へと姿を消した。』
そんな噂話が精々の御伽噺。
実際は屋敷の人間に殺されかけたのはナマエの方であったし、逃げたのは死に体のナマエを抱えた茨木であり、頼光はナマエを取り返そうとした側であるのだが。真実とは悲しいかな何処かで捻じ曲がって伝わる事が多々あるものだ。
特に、常から一部の人間に妖の類だと陰口を言われていたせいもあるのだろう。
そんなある意味で人の悪意からこうなったナマエが頼光達の元へ顔を見せに行こうとすることを、茨木は大層嫌がった。
ナマエとしては、頼光達に退治される側に成ってしまったとはいえ、生前世話になった事には変わりはなく、せめて顔を見せて筋のひとつも通さねば、という気持ちなのだが。
零れそうになるため息をそっと飲み込んで、ナマエは茨木の両肩に手を置いた。
「とりあえず一旦離れようか。
俺の体にあまり長く触っていたら冷えるだろう」
雪入り入道や雪に関する妖怪が混じっているせいか、ナマエの体温は人のそれよりずっと低い。
氷、とまではいかずともひんやりと冷えた体は触れ合いというものには向かないのだ。妖怪としての性質からくるそれはそれがたとえサーヴァント相手だとしても変わらないはずだ。
けれど茨木は離れるどころか更にナマエに抱きつく。そればかりかふんっと鼻で笑うしまつだった。
「舐めるなよ、吾は鬼だ。そこらのか弱い人間と一緒にするな」
そうは言っても、と眉を下げたナマエの顔を茨木は両の手で挟むと無理矢理に自分の方へ寄せた。
慌てて曲げられた腰が、ナマエと茨木の身長差を埋めてぐっと2人の顔が近付いている。
「そうだ、吾は強い。
吾の傍にいる限り汝が毒を盛られる事も、血を吐く事もない。そうなる前に吾が皆殺す。
汝をもう、あの雪山に置き去りにすることもないのだ」
鈍く光る金色の瞳が、ナマエの紅玉を真っ直ぐに見つめる。
けれどそれが僅かに揺れていることを、ナマエは見逃さなかった。
あの日、あの雪の降りしきる日。
大切な友人を傷付けた自覚があった。
目の前の鬼はそれを否定してしまうだろうから、わざわざ口にすることはないけれど。
「...…うん、そうだね」
そうして自分もかつてとは違う温度の両手で、鬼の頬を包んだ。
頼光さんには、後で手紙を出そう。
不誠実なやり方にはなってしまうが、それでもこのまま何もしないでいるよりはマシだろう。
購買で手紙と、目の前の金色の鬼へと渡すお菓子の事を考えながら、ナマエはほうっと白い息を吐いたのだった。
ちなみに、痺れをきらした頼光がナマエを抱えて走る茨木を追いかける、カルデア地獄の鬼ごっこ(文字通り)が始まるのはそう遠くない先の話である。