緩リクエスト募集
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
「左馬刻?」
ヨコハマの海を横目に煙草をふかしていた銃兎は、視界に写ったその人物の姿に目を丸くさせた。
このヨコハマで左馬刻を見かけるは何も珍しい事ではない。
同じMTCの仲間であることを除いても、2人はその職業柄何かと顔を見ることが多々あるのだ。
銃兎が驚いたのは左馬刻の存在にではなく、彼の隣を歩く人物にあった。
片手に白杖を、片手に左馬刻の腕を取る色眼鏡をかけた若い男性。
左馬刻とはそれなりに長い付き合いで、彼が所属する火貂組の事務所にも顔を出したことがある銃兎だったが、隣の男性には見覚えがない。
かといって左馬刻の慣れたような動きと、男性の安心したよう表情は初対面のそれでもなかった。
元来、碧棺左馬刻という男は面倒みの良い方ではあるが、その立場柄か積極的に人助けをすることはなかったはずだが。
そんな事をつらつらと考えていれば向こうもこちらの存在に気が付いたのだろう。
あからさまに面倒なやつに見つかったと言う様な顔をした左馬刻に、にっこりと笑みを返してやる。
「偶然ですね、左馬刻。おや、そちらの方は?」
いかにもたった今気が付きました、といった風を装う銃兎に左馬刻は苦い顔を浮かべた。
「どんな偶然だよ……ナマエ、今話しかけてきたのが前に話した、俺と同じチームの銃兎だ」
「あぁ!そうなんですね、こんにちは」
自分の事を彼に話した事があったのか、と益々目を丸くさせた銃兎はそれでもにこやかな笑みを浮かべる彼に挨拶を返した。
わざわざ左馬刻の方から自身のことを話しているとは、どうやら銃兎が思っていたよりも彼と左馬刻の仲は深いものの様らしい。
「初めまして。俺、ナマエって言います。入間さんの事は左馬刻さんから何度か伺っていたので、会えて嬉しいです」
「初めまして、ナマエさん。左馬刻が一体どんな風に私のことを話していたのか気になるところですが……それよりも2人はどういったご関係で?」
銃兎の疑問にナマエが話し始めたのは半年程前の事。
その日ナマエは白杖が足に当たった、とガラの悪い輩に難癖をつけられ取り囲まれていた。
白杖が人に当たってしまった、と気付いた時点でナマエは「すみません」と謝罪していたし、そもそもとしてわざわざ点字ブロックの上でたむろしていた相手方が悪いのだが、そんな事などお構い無しに囲まれてしまったうえ、強引に奪われてしまった白杖を取り返そうと必死になっていて、そんな所に通りかかったのが左馬刻だったのだ。
近頃ヤクザかぶれの馬鹿達がこのヨコハマを荒らしている、と部下達からの噂が耳に届いていた左馬刻がその光景を目にして黙っているはずもなく。
「それがきっかけで、左馬刻さんから声をかけてもらうようになって……今では友達です!」
「なるほど、そういった経緯が」
あの左馬刻が友達?と疑問に思いはしたが、心底嬉しそうな笑みを浮かべているナマエと、黙ってろ、と眼圧鋭く睨み付けくる左馬刻を前にそれを口に出すことはしなかった。
なんとまぁ、対応が甘いというか、過保護というか。
密やかに笑みを浮かべると、そっとナマエの手を握った。
「貴方とは、なんだか長いお付き合いになりそうですね」
「?はい、よろしくお願いしますね」
そんな銃兎を左馬刻は心底嫌そうな顔で見ていたが、その言葉自体を否定することはなかった、というのが全てなのだろう。
理鶯も混じえて4人で会う日もそう遠くないな、と銃兎は薄らそう思った。