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活気漂う江戸の街。
ふわりと鼻腔をくすぐる焼けた醤油の芳ばしい匂いにきらりと顔を輝かせ、セイバーは駆け出した。
「あ、こら待て、セイバー!」
「その団子は焼きたてだな、ナマエ!」
「いらっしゃい、セイバーさん伊織さん」
皿の上に山と盛られた醤油団子を手に、団子屋の店員であるナマエがふわりと笑みを浮かべれば、伊織も釣られて僅かに口角を上げた。
通りからほんの少し離れた場所に位置する団子屋は、伊織の師であり養父である宮本武蔵が生前から懇意にしていた団子屋で、伊織とカヤも、そして今ではセイバーもお気に入りの店だ。
ナマエは店の次男坊で、店長である父と2人で店を切り盛りしている。
「せっかくの焼きたてなんだ、食べて行こう、伊織!」
「分かった、分かったから」
2人のやり取りを微笑ましそうに見つめるナマエの姿に、伊織は気恥ずかしさを誤魔化すように頬をかいた。
「あはは、お団子2人前ですね 」
ナマエは伊織より2つほど歳上だ。
だからこうしてナマエは伊織やカヤに柔らかな視線を向けていることが多くて、伊織はその度にどうにもむず痒いような気持ちになるのだ。
いつだって穏やかに笑って、それほど広くはない店内を団子片手にくるくると周っている働き者。
その姿をつい目で追ってしまうのは何故なのか。
ふと視線を感じてそちらを見れば、セイバーがニヤニヤとした顔を向けていて、「なんだ」、と聞いてもそのニヤついた顔をそのままに「別にぃ」、と答えることなくそっぽを向いてしまうので伊織は訳が分からんと首を傾げるしかなかった。
「はい、お待ちどうさま。お団子2人前です」
お盆に2人分の団子を持って戻って来たナマエに伊織は顔を上げた。
2人の目の前に団子を置くナマエの動きに合わせて掛衿がずれて、ちらりと首筋が覗く。
そこに刻まれた跡が、伊織の目に映つる。
首筋から見える、僅かに延びる斬り傷。
子供の頃に付けられたというそれはもう薄くはなっていたが、完全に消えることはなくナマエが伊織の知らない誰かに斬られたのだという証として、確かに存在を主張していた。
その傷跡を見る度に、伊織は考えてしまう。
どんな人間に、どんな風に斬られたのだろうか。
よく働くナマエの、ほんのりと日に焼けて薄く筋肉の着いた肌を斬った感覚は。
僅かに首筋にかかって、鎖骨から右胸の上を走っているのだと教えてくれたその斬り傷を想像すると、腹の底がずくりと疼くのは。
「伊織!」
「ッ!どうした、セイバー」
いつの間にか深く考え込んでいたのか、呼び掛けにハッと意識が戻せば、どこか真剣な顔をしたセイバーの顔があった。
「せっかくの焼きたての団子が冷えてしまうぞ」
「あ、あぁ。そうだな」
そう促されて団子を口に入れる。
丁度よく焦げた醤油の芳ばしさともっちりとした団子の美味さが口いっぱいに広がった。
「うん、相変わらず美味いな」
伊織の言葉に嬉しそうに笑って、僅かに頭を下げたのが見えた。
そうしてまた、覗く跡。
いつかその傷跡の全てを見てみたいと言えば、ナマエはどんな顔をするのだろうか。
そうぼんやり思いながら、静かに団子を飲み込んだ。