緩リクエスト募集
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吐き出した息が白く空に霧散していく。
シュミレータールームという仮初の場所、サーヴァントという仮初の肉体であっても熱はあるのか、と槍を奮っていた手を止めてナマエはどこかぼんやりとそう思った。
「よう」
ここで鍛錬してるって聞いてな、と背後から聞こえた声に振り返る。
視界に収めたその姿に、何故か妙に胸がざわついて思わず首を傾げた。
「……弓使い、の」
「アーラシュだよ」
仮にも同じ場所で戦う仲間だというのに名前も覚えていない相手に対し、アーラシュは傍目には気にした風もなく笑って名乗って見せた。
アーラシュ、とその名前を口内で小さく転がしていればバチリと視線がかち合ってその瞬間に心臓が1度大きく脈を打つ。
あぁ、これは駄目だ。
固まってしまったナマエへと伸ばされたアーラシュの手に、無意識に避けようと体が後ろへ半歩下がる。
一瞬、されど確かにアーラシュの顔が傷ついたのをナマエは見逃さなかった。
「ご、ごめん」
「いや、いいんだ。気にすんな」
何故避けたのか分からなかった。けれど、触れられたくないと思ってしまったのだ。他の人に対してはこんな風になった事などなかった。
傷付けたかった訳ではないのだと、必死に頭の中で言い訳を巡らせるのに何一つ上手く形にならない。
アーラシュとナマエはカルデアで共に戦う仲間だというのに、そうある事が酷く難しいのは何故なのだろうか。
きっと全て自分自身のせいなのだと、気が付いていた。
「ごめん、ごめんな。ほんとに、こんなつもりじゃなかったんだ、信じてくれ」
「分かってる。分かってるさ、ナマエ」
「おれは、ただ、ただ、おまえの」
その先に続く言葉がなんなのか、なぜこうなっているのかも分からないまま、震える身体で後退る。
そうしないと取り返しがつかなくなってしまう、と何故だかそう知っていたからだ。まるで何百回と繰り返して染み付いているみたいに。
心臓が元からそこに傷があったように熱を持って痛んだ。それと同時に頭の奥も痛みだす。連動して警笛でも鳴らしているようだった。
見られたくなかった、こんな弱くて醜い自分を。
耐えるように強く目を閉じる。
そうしていれば呆れてどこかに行ってしまうとそう思っていたのに、気が付けばアーラシュの腕の中に居た。
「悪いな、無理矢理で」
耳元で聞こえる声に、思わずびくりと体が跳ねる。
それにふっ、とアーラシュが息を漏らすとより強く抱き寄せられて「ぁ」と無意味な言葉が漏れた。
「お前が俺の為に落としてきたもの、全部俺が拾いたいんだ。
俺は強欲だな。全部欲しがっちまう」
その言葉の意味を理解できないのに、それでも泣きたくなるほどに嬉しくて。
初めて忘れたくないと願ってしまった。