2019クリスマスリクエスト企画
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ナマエはサーヴァントである。
特にこれといって何かを成し遂げた記憶は無いが、何の因果か英霊となり、サーヴァントとしてカルデアに呼ばれた今は人理焼却を防ぐ為に、マスターである藤丸立香の元で他の英霊と共に戦っている。
そんなナマエは現在、このカルデアに来たことを多少後悔し始めている。
サーヴァントとして戦うのはいい。
面倒ではあるが、人理焼却などというとんでもない一大事ではまぁ、しょうがない。
戦力は少しでも多い方がいいのだろうから、呼ばれてそれに応えた以上は、与えられた仕事は熟す。
マスターである藤丸立香の存在もいい。
むしろ自分はマスターに恵まれているだろう。
しっかりと自分の足で立ち、出来ることをする。そのあり方は好ましいとさえ思っている。
ならば何が問題なのか
カルデア内を全力で追いかける2つの影と、それから逃げる1つの影。
「お互い万全の状態での再会だと言うのに、何を逃げることがある」
「年上の言うことは聞いておくに越したことはないぞ、ナマエ」
「なぁんで李書文が二人もいるんですかねぇ!!!」
上から青年期李書文、老年期李書文、そして2人の李書文に生前から目をつけられている哀れな因縁の持ち主ナマエである。
「という訳でしばらく身を隠させてくれ、マスター」
逃げ込んできたナマエに、マスターである藤丸立香とマシュはパチクリと目を見開いた。
「いやぁ、休み中に悪いなマスター、マシュ」
「いえ、それは構わないのですが……」
ナマエと李書文2人の全力追いかけっこは、ナマエがカルデアで李書文と出会った瞬間から開催され、立香やマシュはもちろんながらカルデアでは周知の事実であったので、いつもの事かとなんの問題もなく受け入れた。
そんな中で、ふと立香は常々疑問に思っていたことを口にする。
「ナマエは、李書文先生達のことどう思ってるの?」
「確かに私も気になってはいました……」
マスターの問いかけに、ナマエはぐっと眉根を寄せる。
追う2人の李書文とそれから逃げまくるナマエの関係性は、実際気になるところである。
「……まぁ、そうだな……嫌いではない……めんどうな友人……?」
渋々といった体で答えれば、好奇心旺盛な若者の目がキラキラとこちらを見つめている。
ナマエは仕方がないと口を開いた。
「俺を看取ったのもアイツだし、なんだかんだ言ってアイツといんの楽しかったしな……
戦闘狂な所はめんどくせぇって心底思ってるけどね!」
ニヤニヤと笑う立香に、だから言いたくなかったんだよとナマエは嫌そうに顔を歪めた。
「ちなみにどっちの方が好きとかあるの?」
「いや、どっちも同じアイツだろ……しいていうなら年取ってる方が落ち着いててまだ楽……あぁ、いや、やっぱどっちもどっちだな」
ナマエがそう零したその時、ゆらりと微かに部屋の空気が変わる。
「 呵々、なんだナマエは若い儂よりこの儂の方が好ましいか」
「げっ!!年取った方の李書文!!!」
アサシンの気配遮断を使っていたのだろう、いつの間にマイルームに侵入していた老年期李書文の姿に、ナマエは一気に警戒態勢を取った。一方の老年期李書文はナマエの発言にご機嫌だ。
2人の様子はしつこい飼い主と威嚇する猫のそれである。
「マスター、失礼するぞ。ナマエはここに来て……む、やはり先を越されていたか……」
老年期李書文に続いて、こちらはマイルームの入口から正攻法でやってきた青年期李書文。
自分より先に来ていたもう1人の自分の姿に、眉根を寄せている。
「遅かったな、それで神槍とは笑わせる。
ナマエが若い頃の儂より、今の儂の方を好ましく思っているのも頷けるな」
「ほう、そうなのかナマエ。
それともそこの儂はとうに耄碌してしまったか?」
前門の李書文に後門の李書文。 なにこれこわい。当事者てない立香とマシュでさえ思わず怯える始末である。
「なんで自分同士で煽ってんだよ!
悪いマスター、マシュ、俺は逃げる!!」
李書文相手には逃げるが勝ち。
李書文1人ならまだしも2人も相手にするだけの気力はナマエにはないのだ。
瞬時に逃げ出したナマエに、それでも2人の李書文は楽しそうに笑う。
「すまんなマスター、邪魔をした。
次は儂がナマエを先に見つけ出そう」
「なに、次も儂が先に見つけ出すさ」
そう言ってやはりナマエの後を追おうとする2人に、立香はあのさと声をかける。
「2人はナマエのこと、どう思ってるの」
立香は2人の李書文に、ナマエと同じ問いをなげかける。
ただただナマエと戦いたいという思いだけで、ここまで執着するのだろうか。
いや、どこぞの特異点でスカサハと戦いたいがために地の果てまで会いに行くと宣言した程なのだから、それも無きにしも非ずなのだが。
けれどそれならばちゃっちゃといつもベオウルフ達戦闘狂とシュミレーターでやってるように、ナマエとも試合なり何なりすればいいのだ。
ナマエとて、練習だと頼めば面倒くさがるだろうが相手にはしてくれるだろう。
というかそもそも李書文2人ならナマエをシュミレーターに連れ込んで試合することなど比較的難しくないはずなのだ。
それでもなお、青年期李書文と老年期李書文2人ともがそのどれもせずに、今もナマエを追いかけている。
この戯れを良しとしていることを知りたいと思うその好奇心には勝てなかった。
立香の問いに2人が笑う。
それは神槍と八極拳が浮かべるにはあまりにも穏やかな笑みだった。
「それを聞くのは野暮というものだ、マスター」
そう曖昧な答えを残して、2人はナマエの後を追ってマイルームを出ていった。
立香とマシュは顔を見合わせる。
「なんていうか、好きな子程ちょっかいかけたくなっちゃうアレ……なのかな……」
「そう、なんでしょうか……」
なんだか凄く大人な答えを貰ったような気もするし、その実すごい単純なような気もする。
とりあえず李書文先生達が楽しそうなので、ナマエにはもうちょっとこのまま頑張ってもらうと、心の中でひっそりとエールだけ送っておこうと思う。