緩リクエスト募集
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“肥前くん、ナマエくんがどこにいるか知らないかい?”
“肥前さん、ナマエさんと御一緒でなかったのですね”
「おお、肥前!ナマエはどこにおるか知っちゅーか」
「なんでどいつもこいつも俺に聞くんだよ」
何回目かというやりとりへうんざりとした顔の肥前に、陸奥守吉行はきょとりと首を傾げた。
「そらぁ、2人が手ぇ繋いでいつも一緒におるき」
「別にそんないつも一緒にいるわけじゃねえよ」
ほおか?と納得しているんだかしていないんだか分からない笑みに、思わずため息がこぼれた。
「彼奴が目離すとフラフラどっか行きやがるから、手握ってんのもその為で好きでやってるわけじゃ……」
「つまり、肥前はナマエが大切で心配しちゅーがか」
どこか言い訳じみた肥前の態度に陸奥守がカラリと笑ってそう結論付けた。
互いにもう何百年も前から有り続ける刀の付喪神同士、霊力さえあればこの肉の身1つ、己自身で全て完結できるのに何を今更そんな事を思う必要があるのか。
「……なんでそんなるんだよ」
何か見守るような、生暖かい陸奥守の視線に居心地悪く身を捩りなが、そうぼやくように吐き捨てた。
「ここに居たのか」
「うん?」
探されているとはつゆ知らず、人通りの少ない縁側にナマエは居た。
ナマエの居場所は分かりやすい。
少なくとも肥前にとってはそうだった。
内番の無い日はこうやって人気のない縁側に居ることが多いし、意外にも鍛錬場へは誰かに誘われた時以外は寄り付かない。
あとは昔の縁で先生、南海太郎朝尊か陸奥守の所か。
そう、肥前は他の刀達よりナマエの居場所を把握して見つけることが出来る。
それはこの本丸内では周知の事実で、だからこそ皆が肥前にナマエの場所を聞く。
それでも肥前には不安があった。
ナマエが審神者を主としている限り、本丸のどこかにいると分かっているのに。
頭では理解している。
それでもどこか心の奥底で、いつかナマエが本丸を離れてしまうような、そうなってしまってはもう二度と見つけられない気がして、いつからか繋ぎ止めるようにその手を握るようになっていた。
(心配だとか、大切だとか、そんな綺麗なもんかよ)
脳裏を過ぎる陸奥守の言葉に、自嘲するように乾いた嗤いが零れた。
そんな綺麗な感情だけを向けられていたら、どれほど良かったのか。
「肥前?」
名前を呼ばれてハッと顔を上げる。
「何かあった?」
「あぁ……陸奥守の野郎が探してた」
思い当たる節を探しているのか、きょろりと視線をさ迷わせながらナマエが立ち上がる。
そうして当たり前のように、ナマエの手が肥前の手を握った。
肥前が差し出すより先に繋がれた手に、肥前は目を見開いた。
「……肥前?」
ナマエは縛られる事が苦手だ。
手の自由を奪われることは特に。
それは人を斬る、ということに重きを置いたナマエの性質の問題なのだろう。
ナマエは、肥前が手を握らなくても1人で歩ける。1人で刀を振るえる。1人で生きていける。
1人で、肥前を置いて、どこへでも行ってしまえる。
それが怖くて、嫌で、ナマエの手を握っていた。肉の身を得た肥前の身勝手なエゴだとそう自覚していた。
けれど今、ナマエから手を握られてそのエゴが許されているのだと、そう思ってしまう。
「……なんでもねえよ」
「そお」
行くぞ、なんて言って手を引く振りをしながら顔を背けた。
きっと見せられる顔をしていないだろうから。
ただ強くナマエの手を握り返した。