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新しく金塊探しの旅に加わったナマエは、元々第七師団の人間であった。
そんな、傍から見ればどこぞの猫のような狙撃手と似たような立場である男を警戒するのは杉元にとって至極当然の事でだった。
「少しでも妙な動きをして見せろ、お前の頭ぶっ潰してやるからな」
ぐっと眉間に皺を寄せてそう低く唸る杉元に、ナマエはそれが当然だと頷いてみせた。
少しでもアシㇼパとの距離が近いと感じれば唸り、単独行動を許さず常に監視を続け、杉元は宣言通りナマエという男を誰よりも警戒していた。
警戒していたはずだった。
「ほら見て、杉元くん。お花が咲いてるよ」
「ほんとだ、かわいい〜」
にこにこと花を指さすナマエの隣へしゃがみこんで笑みを浮かべた杉元は次の瞬間ハッと頭を抱え込んだ。
何元第七師団の野郎と仲良く花見てるんだ……!
ちょんちょんと薄紫色の花弁をつついているナマエの横顔を盗み見る。
ナマエが加わってもう数週間、その間不審な動きなど一つも見せず、むしろ戦闘の際は率先してアシㇼパを庇ってみせたり、傷の多い杉元に自身の軟膏を分け与えてやったりといっそ献身的と言っていい迄に他者を気遣い旅路に貢献してくれていた。
アシㇼパはそんなナマエの行動に対し、そこまで警戒しなくていいのではと進言してきたが杉元は頑として首を縦には振らなかった。
これがただの旅ならば問題ない、けれど自分たちの旅には命がかかっている。時に殺し合い、騙し合いが常の旅の中で杉元はやはりナマエに対して警戒心を捨てきれずにいた。
そんな杉元の葛藤など知ってか知らずか、ナマエは杉元の隣で花を摘むと慣れた手つきで茎の輪を作り出していた。
「慣れてるんだな」
「妹がいたからね」
意外そうに呟いた杉元に、ナマエは薄く笑みを浮かべ、ポツリとそう零した。
「作ってくれって、よくねだられてたんだ」
懐かしげにそう語るナマエはするりと杉元の左手を取ると、その小指へ花の指輪をとおしてみせた。
傷の目立つ骨ばった手に、いっそ不釣り合いと言える様な可憐な薄紫の花が咲いている。
いつか雑誌で読んだロマンチックなその行動に、杉元は思わず胸をときめかせてはそれを振りほどく様に慌てて首を振った。
「杉元くんは花が似合うね」
「そ、そうか?アシㇼパさんみたいな人ならともかく、こんな血生臭いごつい男には似合わないだろ」
自嘲気味にそう言う杉元の手をナマエが握る。杉元よりほんの少し低い位置から覗き込むようにナマエの目が杉元の目を思わずたじろいでしまう程に真っ直ぐに見つめていた。
「似合うよ」
ゆっくりと1度伏せられた瞼。意外に睫毛長いんだな、なんてどこか惚けた考えが頭の隅に過ぎる。
「杉元くんにも、花が似合うよ」
はくり、とただ息を飲む。
つい最近まで死地に居た男とは思えぬ程に柔らかな声音。
「そろそろ戻ろうか」
「……あぁ」
するりと離れる手が、外された視線が、ほんの少し名残惜しいなんて、そう思ってしまった自分に杉元はぎゅっと奥歯を噛み締めた。
「……ずるいだろ」
小指に咲く花の指輪。
花に罪はないからな、と心の中で誰に聞かせる訳でもない言い訳を並べて、結局その日1日杉元が指輪を外す事はなかった。