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リラクゼーションルームにポツンと放置されている見慣れたコートに、ナマエは「お」、と小さく声を上げた。
「これあれだよな、歳とった方の書文の上着だよな」
適当にソファに置かれていたそれを手に取って、きょろりと辺りを見渡すがとうの本人の姿はない。
「気配遮断とかしてないだろうな……」
ランサーの方の若い李書文ならまどろっこしい事をせずにやって来そうなものだが、あのアサシンの李書文ならば気配遮断をして隠れて見ている、などということもやりかねない。歳をとったが故の余裕というやつなのか、どうなのか。
生前はあの年齢に達する前に亡くなったナマエには分からないことだが。
暫くしても現れる気配のない事に、ナマエは息を吐くと、改めてコートに目をやった。
襟元にたっぷりとした白いファーがあしらわれた上品な黒地のコートは、そういったものに疎い自分であっても質の良いだと分かる。
李書文が拳を振るう度、ひらりと翻って見える赤い裏地。
あれは男の自分から見てもなかなかに格好が良いのだ。
「強面の彼奴だからこういうの着こなせるんだろうな」
カルデアで燕青達と前にみたヤクザだとかマフィアだとかが題材の映画を思い出す。そういう連中の親玉っぽいのもこういう上等そうなコートを肩に羽織っていた。
まぁ、拳やらなんやらで解決していた挙句に殺生までやっていたのだから自分達もあの映画の連中とそう大差ないのだが。
そんなコートをどうしたものかと持ち上げる。
カルデアに盗みを働くような、それも李書文の物をわざわざ狙う馬鹿な奴はいないだろうが、このままにしておくのもなんだかな、と頭を搔いた。
白いファーに手を伸ばす。ふわふわとした柔らかで滑らかな手触りにナマエははぁ、とため息をついた。
「なんだ、珍しいこともあるものだな」
ごっこ遊びにと子供系サーヴァントにねだられ貸していたコートを取りに来た李書文は、己のコートに包まり眠るナマエの姿に声を潜めそう呟いた。
妙なところでお人好しな節があるナマエの事だ、見知らぬ他人のそれならばまだしも付き合いのある李書文のコートを放ってはおけなかったのだろう。
すやすやと眠るナマエの顔を眺める。
閉じた瞼と病にやつれた青白い顔、異音の混ざる浅い呼吸。それが李書文が見た最期のナマエの顔だ。
サーヴァントとなり全盛期の姿で現界している今、病の影は見当たらない穏やかな寝顔がそこにあった。
気配に気がついたのか、ナマエの体が身じろぐと閉じられていた瞼がゆるく持ち上がった。
「ん、あ?……うお、吃驚した。書文、お前居たなら声かければ良かったろ」
そのままコートを渡そうとするナマエの手を制すと、不思議そうな顔をしたナマエと目が合った。
「まだ貸していてやる、もう少し寝ていれば良かろ」
そう言って数度、ナマエの頭にポンっと手を置くと李書文はくるりとその場から背を向けた。
「儂もまだまだ未熟であったか」
そう小さく呟いた声が拾われることはなく、1人コートと一緒に部屋に残されたナマエは首を傾げながら再びコートに身を包めた。