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感じたのは違和感、次いで絶望だった。
ナマエ・ヴィクトリアーノには片割れがいる。
双子の兄で、名前をルベン・ヴィクトリアーノ。
彼は天才的なまでの頭脳と時に他者に対する冷酷さを持ち合わせ、その関心の殆どは自身の知的好奇心と姉のラウラにのみ向けていた。
それが例え血を分けた片割れだろうと、平凡でなんの取り柄もない存在に欠片ほども興味が無いことなど、ナマエ自身が分かっていた。
そんな双子の間に才能の差があっても、世間一般的な良好な関係を築けていなくても、ナマエは気にしていなかった。気にする余裕などなかった。
それよりももっと、感じるものがあったから。
恐かった。
辺り一面に咲き誇るこの向日葵畑を、自分は知っていた。
恐かった。
美しく優しい姉と、醜悪な化け物の姿が重なるのが。
恐かった。
そんな世界を、この片割れが作り上げるいつかの未来が。
画面越しに見ていたその世界の中に、自分がいるのが恐くてたまらなかった。
それでも逃げなかったのは、この優しい姉が、出会ってすらいない警察官が、特別な力を持つ少年が、彼らが傷付く未来を知っていて自分だけが逃げ出すのかという罪悪感と、“ルベン”が、己の片割れが画面の中ではなく確かに自分の隣で生きているのだと、熱を知ってしまった事で僅かにでも抱いてしまった情からだった。
そうして悩んで、苦しんで、その末にルベンが唯一愛する姉と無事に生きる未来を得られたのなら、あんな恐ろしい出来事は起こらないとそう思ったから、そう願ったから、だからナマエはあの燃え盛る炎の中に飛び込んだのだ。
それで終わりたかった。もう先の未来に怯えることなく、自身の異常性と感じる疎外感と恐怖ごと燃やし尽くして終わりにしたかった。
それだと言うのに何故、自分はあの咲き誇る向日葵畑に立っているのか。
終われなかったという絶望と、脳裏に浮かぶあの恐ろしい機械の存在。
そんなはずは無い。ラウラは自分が助けた。ルベンがあの機械を、「stem」を作る理由は無いはずだ。
だとしてもどうして、自分がこの世界にいるのか。
尽きぬ疑問と混乱に揺れる視界の端、向日葵の向こうでこちらを見つめる1人の男の姿。
“知っている”
自分はその姿を知っている。
__ナマエ
どうしての疑問は恐怖に張り付いて音になることは無かった。
呼ばれた声に弾かれたように走り出す。
震える足を必死に動かした。
__もう、恐れることはない
高い向日葵の背に隠れるように蹲った。
聞こえるはずのない声に必死に耳を塞いでも、声は直接頭に響いて脳を犯していく。
__この世界に、お前を脅かすものはいない
振り払うように意味もなく頭を振った。
じわりと涙が浮かぶ。けれど涙は落ちることなく、かつてより大きくなった男の手に視界ごと塞がれた。
「お前は私が守ってやる」
跨る背に覆い被さるようにして、男は、“ルヴィク”は片割れの耳元でそう囁いた。
ただ咲き誇る向日葵畑に2人きり。
崩壊する道路も、銃声の音も聞こえない。
訪れた知らない未来に泣けばいいのか、笑えばいいのか、ナマエには分からなかった。