緩リクエスト募集
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「いやぁ、随分と面白いことになっているな、今のお前は……いや、お前達、か?」
カルデアの一室、1人酒を嗜んでいた牛鬼はそう言って断りもなく隣へ腰を下ろした天狗の姿に眉をひそめた。
「……何用だ、鬼一法眼」
「なぁに、今の“牛鬼”は僕が見た中で一等おかしな事になっていると思ってな。声をかけてみただけだ」
かんら、から、から!と特徴的な笑い声が響く。
流石は蔵馬の山の大天狗といったところなのか、牛鬼が語らずとも今の牛鬼の内がどうなっているのか、どのタイミングでかは知らないが、その特異性に気付いたのだろう。
「逢わせてはやらんのか?」
興味本位といったところか。
厄介なヤツめ、と牛鬼は内心舌を打った。
牛鬼がカルデアにやってきていまだ日の浅かった頃、マスターが牛鬼の事を聞いて回っていた事があった。
当時、源に連なる者たち、鬼共、そしてあの金髪碧眼の黄金の男。奴らを牛鬼が避けていたからだ。
特にあの黄金の男については気配すら届かせぬ程に徹底的に。
けれど黄金の男、“坂田金時”は牛鬼の前へ姿を表せた。
今は牛鬼の肉体へと成った、かつて共に鍛え、戦い、笑い合った友に再び逢うために。
まぁそれは、カルデア中に鳴り響いた警報アラームを聞き駆け付けたマスターによる令呪、そしてマシュ・キリエライトと渡辺綱が間に入ったことで本当の殺し合いにまでは至らなかったのだが。
そうしてまで、牛鬼は金時と逢わせることを避けてきた。
それはいっそ、傍から見れば献身的と言える程に。
「“これ”はな、奴の言葉を聞けば最後、それでよしとしてしまうのよ」
それがどんなものであれ、己の中で眠るこの美しき者は、ナマエはそれでいいと未練もなく消えてしまう。
ナマエが牛鬼の中にいまだ居続けているのは、あの殺し合いの中で生まれたほんの少しの心の隙を牛鬼が掴み、ナマエの魂を縛り付け、またある種では守っているからだ。
今の牛鬼の形はそういった不安定なバランスの中で奇跡的に成り立ったものだ。
だから、簡単に消えてしまう。
あの男の言葉ひとつで、牛鬼の手からすり抜けていってしまう。
「そんなこと、吾は認めぬ。
ただ消えるだけの最期など、つまらぬ結末で満足出来るものか……ッ!
吾は吾のために、これにもっと良いモノを与える。あの黄金がくらむほど、これがもっと美しく実る姿を見せるモノを、だ」
ピシリッ、と牛鬼の持つお猪口にヒビが入るのを、鬼一法眼は頬杖をつきながら眺めていた。
「よっぽどその内の人間を気に入ったか。
つまりなんだ、お前はこのカルデアに嫁か夫探しの仲人として来たって訳だな」
“おそろしきもの”と呼ばれる牛鬼と人と人の縁を繋ぐ仲人など、最も縁遠い言葉を結びつける鬼一法眼に冷めた目を向けると、牛鬼は一気に酒を煽り立ち上がった。
「解釈など勝手にしろ。
吾の邪魔をせぬならそれでいい」
これ以上話すことはないと言わんばかりに姿を消した牛鬼に、鬼一法眼はふんっと口角を上げた。
「その子が、牛鬼が心を掴まれるほど美しく輝けたのは、他でもない相手があの金髪碧眼の坊主だったからだろうに」
それが解らぬお前ではないだろう。
誰に聞かせる訳でもなくそう呟いて、鬼一法眼もまた姿を消した。