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『三年寝太郎』という日本民話をご存知だろうか。
地域によって多少差はあれど、日々寝ながら過ごしていた一見怠け者に見える男が、ある日突然起きて大きな事を成す、という話だ。
この民話にはモデルがいるとされ、その人の名を『平賀清恒』。土地が貧しく苦労していた村人のため知恵を絞り資金を得て、その資金で田畑に水路を引き村人を救ったという。
話は少し変わるが、このカルデアには何名か擬似サーヴァントと呼ばれる人達がいる。
ロード・エルメロイII世のように自身の意思を残したままの擬似サーヴァントもいれば、遠坂凛のように肉体に宿した神霊の意思が表に出ている擬似サーヴァントもいる。
そしてナマエは前者の、自身の意志を残したままの擬似サーヴァント。キャスター、三年寝太郎こと平賀清恒だった。
「いやぁ、生前?で合ってるのかな。父さんと弟が教会関係者で聖杯戦争にも関わったことあるけどさ、俺自身は教会に入ってもなかったし聖杯戦争に関してもお手伝い程度だったから、そんな詳しくも何もなかったんだけど、それでも何の因果かこんな事になるなんてねぇ」
ウケるよねぇ、なんて他人事のようにヘラヘラと笑うナマエの背後をちらりと見てマスターである藤丸はソウダネ、なんて片言に返した。
「まさか兄弟揃って擬似サーヴァントなんてのになるなんてね」
ピッタリとセコムが如く己の背後を陣取るカソック姿の大柄な男を振り返れば、彼はトロリと光の見えない黒い瞳を歪めて薄らと笑った。
「こうして人理の危機にあっても兄さんと共にいられることは実に悦ばしいことだ」
「2人はその、兄弟だったんだね」
ラスプーチンの擬似サーヴァントである言峰綺礼と寝太郎の擬似サーヴァントであるナマエが兄弟だと発覚した時のカルデアの驚きようといったら凄まじいものだったし、ゴルドルフ所長は頭を抱えていた。
見た目はそう言われれば面影がないこともない、という感じであったが性格は全くもって似ても似つかない。良くいえばおおらか、素直にいえば大雑把で適当なナマエと、勤勉な神父である綺礼とではほとんど対極の性格であるにも関わらず、2人の兄弟仲はすこぶる良かった。むしろ少し怖いくらいに弟の綺礼は兄のナマエを慕っている。
ケルトの海神マナナンの依代である擬似サーヴァントであり言峰神父を慕っているバゼットは、ナマエに対し時折「弟である言峰神父に世話を焼かれて兄として思う所はないんですか」と苦言を呈すが、ナマエはただあっけらかんと「美人が怒ると怖いな」とのらりくらり躱していて、傍から見ればしっかり者の良くできた弟とどうしようもない兄に見えるのだろうが、藤丸はそれに違和感を覚えてならないのだ。
「私と兄は、しっかりと血の繋がりがある兄弟だとも。何があろうとこの事実だけは変わらんよ。目に見えぬ運命の赤い糸、などという不確かなものよりも確かな繋がりだ」
「わはは、そりゃ遺伝子レベルの繋がりだからな。それはそうとして発言がなんか一々重くない?」
綺礼の目尻が薄らと朱に染まって見える。真っ暗な目がじっとナマエだけを視界に写していて、きっとそれは実の兄に向けるには歪なのだろう。それを平然と受け止めているナマエもナマエなのだが。
ふと、アーチャーの英雄王ギルガメッシュが言っていた言葉が脳裏を過ぎる。
「あの兄弟は傍から見れば綺礼の方がまともに見えるが、そうではない。どちらもまともではないのだ。
ナマエもまるでただの一般人のように振舞っているがな、綺礼の人としての歪み正しく理解した上で、肯定も否定もせずに今の今まで見守っていた男が普通な筈があるまいよ」
藤丸は改めて目の前の2人を見る。
2人の関係に違和感を覚えても、それがどこか歪でも2人が兄弟であり続けることは言葉の通りきっと変わらないのだろう。
「うん、2人はお似合いの兄弟って事だよね」
「え、何かマスターくん思考放棄してない?」
にこやかに笑ってグーサインを掲げる藤丸に綺礼は当たり前だが、というような顔で頷いていた。
なんでもない、カルデアの平和な午後の日の話である。